防災庁が発足し、看板を掛ける高市早苗首相(左)と細野豪志防災相(中央)防災庁が発足し、看板を掛ける高市早苗首相(左)と細野豪志防災相(右) Photo:PIXTA

防災庁が発足した11月2日、細野豪志防災大臣は水や食料の備蓄を国民に求める「緊急要請」を出しました。「税金を払っているのに、なぜ自腹なのか」と反発する人もいます。しかし、政府が想定する巨大地震の被害規模を見ると、行政任せでは済まない理由が見えてきます。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)

防災庁ができたのに「備蓄は自腹」?
細野大臣の緊急要請が呼んだ反発

 防災庁が発足した11月2日、細野豪志防災大臣が国民に向けて出した「緊急要請」に反発の声が上がっています。水や食料、携帯用トイレの備蓄や住宅の耐震化などを呼びかけたことがきっかけです。

 それに対して「日々の生活が苦しく備蓄の余裕がない」「税金でまかなえないなら防災庁はいらない」とSNS上で反発の声が広がったのです。

 国民の気持ちも理解すべきです。インフレに加えて、税金と社会保険料の負担が増えています。単純に国民所得に対する税金と社会保険料の割合を示す国民負担率だけを見ても、2026年度も45.7%と高い水準になる見通しです。

 江戸後期の五公五民に近い圧政になってきているのです。

 細野大臣もそのことは十分に理解したうえで、なお、国民に備蓄と耐震化を緊急要請したのだと思われますが、その理由はいったい何なのでしょうか?

 シンプルに説明すると、税金でできることとできないことがあるということです。

避難所の改善は国の責任
ただし防災庁の役割はそれだけではない

 新たに発足した防災庁は税金でできることに集中したい考えのようです。それは何かというと、過去数十年間改善されていない日本の避難所の水準を上げることです。

 トイレ、キッチン、ベッドといういわゆる「TKB」と呼ばれる3要素は、日本の避難所では長らく被災者の我慢の下で供与されるのがあたりまえという環境でした。

 冷たい体育館の床にシートを敷いて寝て、段ボールの壁を貼ってプライバシーを守る。食事は配給される災害用の缶詰やレトルト食品で我慢をする。水は並んでペットボトルに入るだけ。その避難所にメディアのカメラがずけずけと入ってくる。

 そのような環境で、被災後の災害関連死で亡くなる方が多数発生しているのが日本の避難所の実情です。

 海外と比較するのは必ずしも適切ではないかもしれませんが、災害時のTKB対策が進んだ国では、トイレ、キッチン、ベッドが迅速に被災地に運ばれます。特に日本と違うのが、キッチンで調理される温かい食事とあたりまえのように提供されるワイン。プライバシーが確保された暖かい避難所のレベルについては、日本と欧米の格差はかなり広がってしまいました。

 ここは税金で改善できる課題であることは間違いありません。防災庁が発足後、まっさきにこの避難所問題に取り組もうとしているその姿勢は、行政の在り方として正しいと私も思います。

国だけで支え切れるのか
巨大地震で想定される避難者数

 一方で、なぜ防災大臣は国民に緊急に備蓄を要請しなければならないのでしょう。