外国人相手の交渉となると、なぜか弱いイメージがつきまとう日本人。かく言う筆者も、外国人相手と言わず交渉ごとはすべて苦手である。

うまくいく交渉と失敗する交渉の違いはどこにあるのだろうか?

捕鯨交渉などでアメリカ・ヨーロッパの反捕鯨国から「タフ・ネゴシエーター」と恐れられ、米ニューズウィーク誌の「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた、元官僚で政策研究大学院大学客員教授の小松正之さんに、国際交渉における失敗の本質について伺った。

日本が第二次世界大戦で負けたのは
「長期的な視野」がなかったから

――国際交渉というとやや大げさですが、外国人を相手にすると、なぜかいい顔をしてしまう日本人は多いような気がします。今回は是非とも、タフ・ネゴシエーターで知られた小松さんに、国際交渉のコツを教えていただきたいと思って参りました。

こまつ・まさゆき
政策研究大学院大学客員教授(リーダーシップ・交渉権、海洋政策) 1953年岩手県生まれ。東北大学、米エール大学経営学大学院卒。経営学修士(MBA)、東京大学農学博士号取得。1977年水産庁に入庁後、資源管理部参事官、漁場資源課課長等を歴任。国際捕鯨委員会、ワシントン条約、国連食糧農業機関などの国際会議に出席し、水産業の発展に従事。2005年、米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。主な著書に『国際マグロ裁判』(共著、岩波新書)、『日本人とクジラ』(ごま書房)、『これから食えなくなる魚』(幻冬舎)、『劣勢を逆転する交渉力』(中経出版)、『震災からの経済復興13の提言』(共著、東洋経済)『なぜ日本にはリーダーがいなくなったのか?』(マガジンランド)などがある。

 コツと言われると、難しいですね。

 交渉力というのは、ちょっとやそっとの努力と勉強では身に付きませんよ。いつでも学ぶ姿勢を保って、何十年も取り組まないと。まあ、どこから始めてもいいのですが、だいたい、子どもの頃で決まります。親の生き方と教育方針でほぼ、わかりますから。

――親ですか……。

 いい大学・いい会社に入って、一生、楽をして暮らしなさいという親からは、交渉力のある子どもは育ちません。

 私が思うに「役人」を「官僚」と呼び始めた頃、公務員試験講座ができたあたりからおかしくなったと思います。給料が安くても国民全体のために奉仕しようというのではなく、一生楽して暮らしたい、と思う人間ばかりが役所に入るようになった。もっと人一倍、世のため人のために苦労をし、そこに生きがいを感じるようでないと国際交渉などできません。

――苦労を生きがいに、ですか?

 そう、それと大局観を持つこと。

 第二次世界大戦中、アメリカ軍はミッドウェー海戦の前から日本の占領政策を考えていたんです。個々の戦況とは別に、全体を見るセクションがあって、長期的な視野に立って戦略を練っていた。

 日本は、いつの時代もその長期的戦略に欠けている。だから、交渉ごとで負けるのです。それと、基本は知識です。普段から蓄積した知識をより深めて、ここぞ、という場面で生かすことができるかどうか。それが交渉力です。ところが、今の若い人たちが求めているのは、単なるテクニックでしょう。そんなのは、ちっとも力にならない。