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スマートフォンの理想と現実

マイクロソフトとノキアの“遅すぎた春”
その夢いっぱいの未来と、足もとに山積みの課題

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第49回】 2013年9月4日
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買収したことで買収されたマイクロソフト?

 期待と不安、そして時間との戦い――ひと言でまとめると、こんな印象ではある。しかし、もしかすると、本当の狙いは、そこではないのかもしれない。

 冒頭に記したように、今回の買収にあわせて、ノキアのステファン・イーロップCEOが、買収完了後にデバイス部門担当の上級副社長としてマイクロソフトへ「復帰」することになる。これまでデバイス・アンド・スタジオ(Devices and Studios)部門の責任者だったジュリー・ラーソン-グリーン氏は、イーロップ氏の配下となるようだ。

 業界ではよく知られているように、彼はマイクロソフト出身で、2011年2月のバルセロナにおける業務提携の発表時には、「あなたは(ノキアにとって)トロイの木馬ではないか?」とプレスから質問が飛んだ。

 しかし、イーロップ氏こそが、今後のマイクロソフトを担う人材なのかもしれない。数日前、マイクロソフトの現CEOであるスティーブ・バルマー氏が引退を発表し、後継者について関心が高まっていた。すでに一部メディアでも報じつつあるが、イーロップ氏が後継者候補として先頭に躍り出た格好なのは、間違いないだろう。

 仮にそうした人事が実現するとなれば、これはマイクロソフトにとって、創業以来の大転換期を迎えることになる。ノキアを軸にしたモバイル・シフトを全社挙げて進めるとなれば、従来型のパソコンや情報システムのパラダイムとの決別をも、意味するからだ。

MWC2013でもノキアブースは来場者で賑わっていた。その高い潜在能力を活かせるか Photo by Tatsuya Kurosaka

 もちろんこれはまだ憶測に過ぎない。そして憶測通りの人事が実現したとして、マイクロソフトがそれをやりきれるのかも、分からない。しかしその憶測を正当化するだけの市場環境であり、また両社に対する期待が根強いことも、間違いない。

 マイクロソフトは、いまだIT産業の支配者の一人である。そしてノキアも、高い潜在能力を備えたモバイルの雄であることに、違いはない。両社が結びつくことで生じる化学反応が、両社自身を変えることにつながるのか。影響は多くの分野に波及するだけに、買収の可否も含め、しばらくは動向を注意深く見定めたい。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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