「サンのスポンサーはIBMではないのか」──。
4月21日、身売り先を探していた米コンピュータ大手のサン・マイクロシステムズの買収に名乗りを上げたのは、米企業向けソフトウエア大手のオラクルだった。4月上旬、買収金額が折り合わず一度破談になったとはいえ、やはり米IBMが本命視されていただけに、業界関係者は一様に驚いた。
サンといえば、かつてはIT業界をリードした企業だった。安価・小型の企業向けワークステーションでメインフレーム(大型汎用コンピュータ)時代を終わらせ、ダウンサイジングのトレンドをつくった。しかし、近年はサーバ市場の競争激化で業績が低迷。米金融危機による企業のIT投資激減で、昨年一二月期まで2四半期連続で純損失を計上していた。
その赤字企業に、オラクルはなぜ74億ドル(約7400億円)もの値を付けたのか。背景には、クラウド・コンピューティング(システムやソフトをユーザーが自前で所有・運用する代わりに、ネットを経由してサービスとして利用すること)の進展に対する危機感がある。
クラウドが進めば、パッケージソフトをわざわざ購入してパソコンにインストールする必要はない。ネット経由で、使いたいときに利用でき、使ったぶんだけ料金を支払えばいい。さらに、パッケージソフトのように自前でアップデートしなくても、サービス事業者が常に最新バージョンを提供してくれる。パッケージソフトの販売と、有料アップグレードによって安定的・継続的に収益を上げてきたオラクルのビジネスモデルは、根本から変革を迫られていた。だからこそ、ソフト単品ではなく、ハードも統合した一気通貫の付加価値サービスで差別化を図ろうとしているのだ。
だがサンの主要製品のサーバ市場は、IBM、米ヒューレット・パッカード、米デルの3社が低価格を武器に7割強を押さえている。一方、得意のソフト分野では、米セールスフォース・ドットコムなどクラウドサービスを提供する新興企業の追い上げを受けている。
ITは、各社が自分の専門分野に特化して協業する「水平分業型」の産業であり、一般的に、餅は餅屋に任せたほうがコストメリットは高い。ソフトとハードを合わせた一気通貫のサービスが、はたしてどの程度価格志向のユーザーに訴求することができるのか。「統合効果は不透明」(業界関係者)という見方もある。
クラウドの進展で「業界を超えたアライアンスがさらに活発になる」(亦賀忠明・ガートナージャパンバイスプレジデント)のは確実だ。米マイクロソフトと米ヤフーの提携話も再燃の可能性が取り沙汰されている。IT業界は大再編・淘汰の時代に突入した。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛)