ある日、クライアントである名古屋の専門学校からクレームの電話が入った。担当者である飯田へのものだった。夏野は外回りで不在だった。おろおろする飯田の代わりに、社長がお詫びをしてその場は終えた。

 社長は室内の隅から隅まで聞こえるような大きな声で、飯田に怒鳴りつけた。飯田いわく「窓が割れるくらいの振動のする声」だったという。飯田にも当然のごとく問題はあったのだが、その仕事を指示したはずの夏野は事務所に戻ると、社長と一緒に叱りつけた。

「あれほど言っておいただろう?」

「君はどうして、そんなに覚えるのが遅いの?」

 社長は、飯田には決して叱ろうとしない。注意指導すらしない。このコンビは「あうんの呼吸」で成り立っている。社長は少なくとも、表向きは夏野を全面的に信頼しているようだ。

傷だらけの社長や社員が寄り集まった
今にも潰れそうな会社の憂鬱な内情

 前述のように、ここまでの状況は一部のベンチャー企業に見られ得ることだろう。

 若手4人をさらに悶えさせるのは、社長と夏野の「過去」である。2人ともこの代理店で働き始める前に、仕事で上手くいなかった経緯がある。(⑥)

 社長は大手広告代理店を辞めたすぐ後に、代理店を創業した。ところが、わずか2年で解散してしまった。創業時からコンビを組んだ役員の男性が、部下数人を連れて独立したのだという。倒産することを懸念し、社長は早いうちにその代理店を廃業にした。

 コンビを組んでいた男性に社内のこと、たとえば部下の育成などは任せ、自分は営業に力を入れた。これが裏目に出たのだ。もともと、部下の育成には関心が疎いようだ。