データサイエンティストは「占い師」を目指す?
北川 プラットフォームをにオープンにするのが難しければ、社内でもいいんです。データ分析した結果がUXに関わることだったら、僕らよりUXチームのメンバーの方がいいインサイトを見つけられるはずですよね。もしくは、ユーザーの立場でいいインサイトを見つけてくれる人もいるかもしれない。データサイエンスチームでやった解析結果を投げたら、社内からインサイトが集まってくる仕組みをつくる。それって範囲は限定されていますが、クラウドソーシングみたいなものだと思うんです。
西内 自分がコンサルタントとして入る会社だったら、社員の方からのインサイトを得るために、複雑な分析結果でも視覚的にわかりやすくまとめて意見を聞いてみるようにしているかな。あとは、事前に統計学に関する研修をしてリテラシーを高めてもらう。それが正攻法の一つだね。
北川 社内に統計学的な共通言語をつくるのは大事ですよね。でもコンサルティングという方法だと、おそらく社員の方とインタラクションするなかで、啓さんがインサイトを見つけてあげることになる。そこを、もっと一般の社員がばーっと見つけられるようにできないかなと考えてるんです。
西内 なぜ、社員自身に見つけさせようとしているの?
北川 僕は統計解析の内容よりも、どんな組織で統計解析をし、その結果を実行するかが大事だと思っているからです。それが結果的に内容の向上にもつながるはず。「データサイエンスは技術論ではなく組織論である」というのが、最近思うところなんですよね。
西内 ほう。
北川 今、確実に儲かるデータサイエンスの仕事っていうのは、広告と金融とゲームとレコメンドです。この4つで効率よくお金を儲ける組織の作り方は、会社組織という大きな歯車にデータサイエンスの専門チームを外付けして、予測精度を上げさせるというもの。もし1人データサイエンティストを雇ったことで、5%予測精度が上がり、5000万円売上がアップしたとしたら、その人に1000万払っても惜しくないですよね。
西内 アメリカではそうだよね。
北川 だから、シリコンバレーのデータサイエンティストは高給取りなんです。でも、日本の組織だとデータサイエンティストも中の組織に入れて、まず歯車の円周を全部回るような仕事をさせる。すると、優秀なデータサイエンティストは往々にして他の仕事は不向きなので、役に立たないと思われて給料が下がる。
西内 それ、わかるなあ。とある大企業の重役に「うちの会社でも統計学ができる人材を育てたいんだけど」と言われたことがあって、文理問わず高学歴な人材がそろっている会社だったから、「卒論・修論ではけっこうみんな立派な統計解析やってると思いますよ」と答えたことがあるんだ。なのに最初の3年間で営業とかを経験させているうちに、みんな統計解析ができなくなってるんじゃないかと思って。
北川 そのとおりですよ(笑)。
西内 育てるって言うより、芽を摘まないことが重要だよね。じゃあ、拓也はデータサイエンティストが外付けの組織になればいいと思ってるの?
北川 いえ、それだと会社としてお金は儲かりますが、僕の理想は別にあります。僕はむしろ、データサイエンスのチームを、経営に一番近いところに配置したい。データサイエンスチームは経営課題を発見する場所であるべき。そこから戦略を生み出す組織にしたいんです。
西内 そうだね。経営者がやたら頼りにする占い師っているでしょう。僕は統計学者が、経営者にとっての占い師的な立場になるのが理想だと思ってる(笑)。やっぱり関わってる会社ですごく話が早いのは、社長が統計学的な数字が好きな人。社長がそうなると、役員会議から現場の会議まで、資料のすべてに裏付けとなる数字があるのが当たり前という文化が育つんだよね。
北川 ああー、統計学的な数字。それって会計の数字とは違いますよね。売上や利益の数字にこだわる経営者は多いけれど、統計学的な数字が好きな経営者はあまり多くない印象です。
西内 そういう文化だと、部署に1人くらいは統計にめっちゃ詳しい人がいて、その人たちが相談するさらに詳しい人がいて……というように、会社組織のピラミッドと相似形で、統計学に詳しい人のピラミッドができる。そうなると組織がすごく強くなる。
北川 そうですよね。楽天も各店舗をエンパワーメントするために、1人ひとりが統計コンサルタント並の知識を使えるようになると、すごい変化が起きると思います。
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