前回は認知的不協和について述べた。繰り返しになるが、人はすでに認知(理解)していることに馴染まない情報を入手した場合、緊張や不快が生じる。その嫌な感じを回避しようとして、自分に馴染まない事象に対して拒絶しがちだったりする。例えば、喫煙者にとって、タバコを吸うという嗜好と癌になりやすいという不利益な情報は、不協和の関係にあり、認知的不協和を緩和(低減)させたいとのバイアスが働く(※1)。

(※1)フェスティンガーの実験は、タバコを吸うと癌になるかを問うというアンケート調査に基づいたものだった。ちなみに1950年代は、医学的には喫煙の習慣と癌の因果関係は実証されてはいないが、ほとんどの人が経験的に知っているという状態だった。

 ごくごく簡単にいえば、人は、嫌なことは聞きたくないという傾向にあり、それによる判断ミスを防ぐ対策は、自分をごまかさないことだ――と書いたところ、読者から「自分のことを責められているように感じた」という感想をもらった。もちろん、そんな意図は私にはないし、そもそも、その読者は、認知的不協和を感じ、しかし、「嫌なことは聞きたくない」という不協和低減の方法を意識的にもまたは無意識にもとらなかったわけだから、「自分をごまかさない」という対策に対する準備はできているということになる。他にももしそう感じた読者がいたとすれば、過度の心配は不要だろう。

 閑話休題。

“タクシー問題”からわかること

 しかしながら、「自分をごまかさない」だけでは十分ではない。というのも、認知的不協和がなくても、人は、人の話を聞いていないということは多いからだ。以下は、タクシー問題と呼ばれるものである。よく考えてから答えていただきたい。

【問題】

 ある街では、(緑色タクシー会社と青色タクシー会社の2社しかなく)タクシーの総数のうち85%が緑色の車体、15%が青色の車体である。あるとき、その街のタクシーによるひき逃げ事件が発生した。目撃者の証言によると「犯人のタクシーは青色」。その証言がどのくらい正確かを事故のときと同じような状況下でテストしたところ、80%の確率で正しく色を識別できるが、20%の確率で実際とは逆の色を言ってしまうことがわかった。証言通り、青タクシーが犯人である確率はいくらか?

 「よく考えてから答えていただきたい」と書いたので、正解者が多いことを期待したいが、直感で答えると多くの人が間違えるという。