超一流企業でも起こす
取り返しがつかない事故
井端純一
いばた・じゅんいち/同志社大学文学部新聞学(現メディア学)専攻卒。リクルートを経て、『週刊CHINTAI』『ZAGATSURVEY』取締役編集長などを歴任。2003年、オウチーノを設立。「新築オウチーノ」、「中古オウチーノ」、リフォーム業者検索サイト「リフォーム・オウチーノ」、建築家マッチングサイト「建築家オウチーノ」などを運営。著書に『広報・PR・パブリシティ』(電通刊)、『30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方』、『10年後に絶対後悔しない中古一戸建ての選び方』(共に河出書房新社刊)などがある。
2014年2月、財閥系大手デベロッパーと、スーパーゼネコンが「欠陥億ション」の引き渡しを断念し発売を中止、手付金は常識を超える「3倍返し」が行われたと話題になった。
「こんな超一流企業でも、こんなことが起こるのか」と、驚かれた人も多いのではないか。原因は図面の転記ミスにあるとされたが、施工不良は起きてしまえば、プロ同士でも発覚しにくいから難しい。
現在のように、価格高騰の熱が次の熱を呼んで膨れ上がる時期には、どうしても買い手の眼が曇る。職人不足で現場では手抜きが横行する。20年前のバブル絶頂期が、まさにそうだった。
現在マンションをつくって売っている不動産や建築の専門家の中には、どの程度、当時の経験を持つ人がいるのだろうか。果たしてその苦い経験は、今に生かされているのだろうか。
危うく欠陥マンションを
つかみかけた体験
超大手の事故発覚の記事を読みながら、私自身がバブル期に直面した欠陥マンションのことを思い出した。
マンションの竣工後、引き渡し前に内覧会が行われる。そのときマンションを購入予定だった私は、内覧して驚いた。途中で材料が足らなくなったのか、和室に節くれだった捨て材(普通は仕上げ材に使えないもの)を使っている。壁のクロスは歪んでカットされており、見るからに素人作業だ。ドアの立てつけも、歪んでいておかしい。それでも、「なんとなくおかしい」程度にしか感じなかった。ある程度住宅に詳しい人間でも、バブルの熱気に当てられるとこんな調子に陥るのである。
目が覚めたのは、ローン契約の瞬間だ。「井端さん、申し訳ないが1期分間違って登録したので、金利がコンマ何%か違ってしまいました。まあ、わずかの差だから勘弁してくださいよ」。
当時、住宅ローン金利は5~6%だったと思う。最も高くなった1990年末には、8.5%まで行った。そこに至る前だったが、コンマ何%かの金利差は、返済総額にして300万ほどの差になった。デベロッパーの横柄な態度にハッとした私は、そこで即座に契約を流した。
施工不良を防ぐ検査体制と
情報開示の重要性
バブル崩壊後は、欠陥マンションの話題が世間をにぎわすようになった。有名なのが八王子の多摩ニュータウン物件だ。トレンディドラマの舞台になり、権威ある学会賞を受賞した物件だったのに、竣工後から雨漏りがひどく、10年後の大規模修繕時に鉄筋不足が発覚した。明らかな手抜き工事だ。
その後も、いくつもの欠陥マンション事件を経て、05年には構造計算書偽造事件が起きた。このときはプロの一級建築士があえて手抜きを行ったという事実に、衝撃が走った。
それらを受けて、施工不良を防ぐ対策が進められてきた。当然、10年前とは異なる人員の配置やチェック体制がとられていると思いきや、またも今回の欠陥億ション事件である。
これが氷山の一角にならないことを切に願いたい。現在、すでに施工現場では職人不足が深刻化、震災復興やオリンピックに伴う公共工事増で、事態はさらに難しくなると見られている。
政府は、建設業の労働者の不足解消に向け、15年春をめどに時限的な措置として外国人技能労働者の受け入れを拡大する方針だ。ここでバブル期の二の舞を踏まないためには何が必要か。
一つには、検査体制の強化が必要であり、もう一つには、検査結果の情報開示だろう。欠陥億ション事件は、関係者のネットへの書き込みから発覚した。情報がオープンになれば、人々が監視する中で、チェックが行われることになるはずだ。オリンピック前で市場が過熱しそうな今だからこそ、万全の施工&チェック体制づくりが急がれる。
■この記事が収録されている「週刊ダイヤモンド」別冊 2014年5月3日号『新築マンション・戸建て 住宅選びの最強戦略2014年春』の詳しい内容はこちらからご覧いただけます。
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