読売新聞スクープの内情
首脳会議の裏で続けられた日米TPP交渉の結果をほとんどの新聞は「決裂」と報じ、読売だけ「大筋合意」と伝えた。その後の報道を見ると、日本は牛肉・豚肉の関税引き下げで米国の要求を呑み、交渉はひと山越えたようだ。「大筋合意」である。
多くのメディアは結果的に「誤報」となった。「協議はまとまらなかった」とした政府発表を鵜呑みにしたメディアに責任の一半はあるが、報道各社が「誤報」を伝えるような発表を敢えて行なったのは政府である。
「尖閣は日米安保の対象範囲」という発言をオバマ大統領からもらうために、牛肉と豚肉を差し出した。その内実を隠すには「決裂」と報じられる方が都合がよかったのである。「大筋合意」をスクープしたのに、読売新聞はなぜか「日米安保とTPPとの取引はなかった」と紙面を費やし主張している。
尖閣が日米安保の対象地域であることを表明することは、首脳会談の準備作業で既に決まっていた、TPPで日本が譲歩したのは、首脳会談後に甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表の閣僚会談だ、取引にはなりえない、というのである。
つまり時差がある、というのである。日本側は準備作業の中で取るべきものを取った。首脳会談が終わってから不利な条件を出す必要はない。だから「取引はなかった」と主張している。政府の秘密交渉を暴いたのなら、国民を欺くような情報操作をしたことを厳しく非難すべきだろう。それが安倍政権になり代わって「TPPと安保に取引はない」と言い張る。ここに読売のスクープの内情がにじみ出ている。
TPPで日本が譲歩したことはいずれ分かる。大多数の報道機関が「決裂」と書く中で「大筋合意」と打つことは、一種のガス抜きだ。農業団体の幹部など取りまとめに当たる人たちに覚悟を迫っておかないと真相が表面化した時、一大事になる。政府に同調的な論調の読売は、リークの受け皿になったのだろう。
通商交渉の「敵」は国内にもいる。交渉は相手があるだけに100%の勝利は難しい。5分5分でも7分3分でも、国内の関係者に犠牲を強いることになる。安全保障で得点を稼ぐため農業を犠牲にする、という構図が決まった段階で、最大の問題は「国内への説得」へと移った。