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スマートフォンの理想と現実

新プログラミング言語発表とヘッドホン製造会社買収から読み解く「クラウド戦争」時代のアップルの戦略

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第62回】 2014年6月6日
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新しいマーケットのルールとは何か

 江渡氏の指摘は明快だ。新しいマーケットのルールとは、クラウドを主戦場とした、サーバサイドでの高性能なコンピューティングである。従来は単なるストレージや仮想コンピュータ、あるいはソーシャルグラフに代表される、サービスのエンティティ間の効率的な連携の仕組みなど、サービスを支える位置づけだったクラウドが、これからは主従逆転し、サービスを構成する主体そのものになる。

 こうしたパラダイムにおいては、端末はむしろクラウドの処理を忠実に実行するための出先として、クラウドとシームレスに連携し、クラウドで処理された演算を自然に表現する「ユーザインターフェース」としての役割が求められる。今回発表されたSwiftは、そうしたシームレスな連携を指向し、結果として端末の(見かけ上の)インテリジェンスを高めていくのだろう。

 テクノロジートレンドを追いかける方々からすれば、「何をいまさら?」と思われるかもしれない。確かにこうしたパラダイム自体は業界ではすでに広く提示されているし、この領域に関しては、プログラミング環境の整備も含め、グーグルの方が遙かに先行している。またマイクロソフトのキャッチアップも進行中で、アップルが圧倒的な競争優位を得ているというわけではない。

 しかし、スマートフォンが世界中の消費者に行き渡ったのは、まだつい最近のことだし、まして日本ではまだ普及率が半分を越えたかどうか、という程度。先進国を中心に、いよいよスマートフォンによるサービスが本格化するのは、実はこれからであり、アップルも重い腰を上げてクラウドが主役になる時代に布石を打った、ということである。

 では、アップル、グーグル、マイクロソフト、それにアマゾンやIBMも交えた「クラウド戦争」において、アップルはどのようなエコシステムを構築しようとしているのか。そのヒントは、WWDCに先だって発表された、Beats Electronicsの買収である。

 著名ヒップホップアーティストのDr. Dreが経営に参画していることでも知られる同社は、スタイリッシュなヘッドフォンを作るブランドであり、最近ではBeats Musicという音楽配信サービスにも進出している。今回同社を総額30億ドルで買収すると、5月28日にアップルが発表した。またこれに伴い、同社の共同創業者であるJimmy IovineとDr. Dreが、アップルへ合流することも明らかにされている。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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