アップルの“美的感覚”とは
かけ離れたイメージ?

 アップルがヘッドフォンのメーカー、ビーツ・エレクトロニクスを32億ドルで買収する見込みという。

「ビーツオーディオ」の日本語WEBサイト。カラフルな商品が並ぶ

 ビーツは、2008年にラッパーのドクター・ドレと音楽レーベル、インタースコープ・レコード会長のジミー・アイオヴァンが共同創設した会社。「b」のマークがついた同社のヘッドフォンは低音が効くことが特徴で、若者やラップ系音楽ファンに人気だ。

 しかし、そのごっついデザインはどこから見ても繊細なプロダクトづくりをモットーとするアップルの美的感覚にそぐわず、買収のうわさが出るやいなや、ジョブズ亡き後のアップルは何をトチ狂ったかという声も聞かれたほどだ。

 実際、ビーツを買収してアップルは何をしようというのだろうか。

 ビーツのヘッドフォンは、安いものでも200ドル、高い製品は450ドル近い価格がついている。音楽ファンのためのプレミアム製品だ。一方、音楽好きのアップルユーザーならば、iPhoneやiPodについてくるちっぽけなイヤフォンはすぐにお蔵入りにして、高品質なヘッドフォンを買っていたはずだ。

 そうしたユーザーにビーツのヘッドフォンに乗り換えてもらうというのも、確かに1つの目的だろう。一説にはビーツのヘッドフォンは原価が15ドルほどとも言われ、ブランド力で価格をつり上げた驚くほどのハイマージンなビジネス。ハイマージンが好きなアップルにはぴったりというわけだ。

 だが、直接の目的はストリーミングサービスだろうとされている。音楽ファンはここ数年間、iTunesのようなダウンロードサービスからストリーミングサービスへ急速に移行してきた。無料、あるいは格安の定額料金で利用できるパンドラ、iHeartラジオ、スポティファイなどのサービスが人気を呼んでいる。

出遅れたストリーミングサービスに
ビーツのブランド力で反撃か?

 アップルは、iTunesで音楽市場を牛耳ったにもかかわらず、ストリーミングサービスではすっかり乗り遅れた。自社のiTunes Radioは市場3位とはいえ、シェアは8%と小さい。そこでビーツのストリーミングサービスと組めば、最強になるというわけだ。

 とは言うものの、ビーツのストリーミングサービスは今年1月にスタートしたばかりで、ユーザーもようやく数千万人に到達したほどとされる。したがって現在のユーザー数としては魅力がない。だが、強みはビーツ共同創業者のアイオヴァンの業績とネットワークである。

 アイオヴァンは、ブルース・スプリングスティーンやU2のプロデューサーを務め、ラップを中心としたインタースコープ・レコードを設立して以降は、音楽業界の中心的なインサイダーとなってきた。つまり、アイオヴァンを引き入れることで、アップルのストリーミングサービスをごっそりと底上げできる可能性があるのだ。