——安倍政権下、成長戦略として“女性活用”が唱えられ、具体策として「保育所の待機児童解消」「再就職支援」「女性幹部の増加」が挙げられています。効果はありそうでしょうか。
今の安倍政権の女性活用策は悪くはないのですが、活躍できる女性に「今の男性並みの生活」を強いることになりはしないかと心配です。今の日本のキャリア男性の仕事は、家に専業主婦がいて家庭の心配をしなくてよいことを前提に組み立てられています。この前提をなくして、男女ともに仕事も家庭も充実した生活が送れるような政策が望まれます。
——格差の固定化が色濃くなってきてから、状況の悪化は加速しているとお感じですか。
すべての男性が正社員になれない、という状況が広がってきたのが1990年代後半からですから、20年になりますね。でも、それが加速度的に進んでいるというよりも、固定化された状況が「中高年層に及んでいる」点に目を向けるべきだと思います。
雇用体系の変革に反対する一番の保守派は…
——当時、正規社員の職にあぶれてしまった「元若者」が今、歳を取って中高年になっています。従前から「彼らの「希望が持てない」という心理をどうにかするのは難しいが、リスク化や二極化に耐えうる個人を公共政策によって作り出せるかが日本社会を強化するカギだ」と指摘されていましたが、対応は進んでいるでしょうか。
「新卒一括採用」「年功序列」という日本的雇用慣行が堅固なために、対応は進みません。政策でどうこうできない状態と言えるでしょう。
たとえば日本の場合、フリーターや中小企業に務めていた人が、いきなり大企業に普通に就職して一緒に働くということはあり得ません。でも、私がいま研究のために滞在している香港や欧米なら普通にあります。「格差があってもチャンスはある」と思える社会なのです。
日本では、高度成長期にできあがった「ほぼすべての男性が正社員として終身雇用される構造」がすべて壊れた、とすれば別の問題が起きたはずですが、何分の一かの人間がそこに入れなくなった、ということこそ問題なんです。
おそらく企業側は今後も、今の雇用体系を守りつつ、その内側に入れる人を減らしていくだけだと思います。仮に企業の経営層が新卒一括採用・年功序列という慣行をもっとフレキシブルに変えていきたいと考えても、専業主婦がいる中間管理職や正社員男性という一番の保守派が頑として反対するでしょう。
——日本人同士の争いが続いて、20年後には年間20万人が孤立死を迎える社会になる、とも警鐘を鳴らしてこられました。
残念ながら、そういう予測が成り立ちます。その過程において、彼らを養うコストが広がるか、養えなければ治安維持のコストが膨らむか、日本はどちらかの選択を迫られることになります。
書籍紹介
山田昌弘著(朝日新聞出版、定価1600円+税)
若者の未婚化・シングル(単身)化が進む
日本の未来に警鐘をならす!