安倍政権は「岩盤規制の改革」の代表として、雇用分野を農業・医療に並ぶ重点分野として位置付けてきた。持続的な経済成長を実現するには、①労働力と資本という生産要素の有効活用と、その結果引き上げられる潜在成長力をフルに実現するための、②「生産増→所得増→支出増→…」という経済の自律成長メカニズムの円滑な作動が条件になる。その観点から日本経済が抱える課題を踏まえれば、雇用・賃金システムの改革こそ成長戦略の本丸といえる。人手不足感が高まるなか就業率の引き上げが大きなテーマとなり、賃金デフレに終止符を打つことができるかの正念場に差し掛かっているからだ。

その意味では「日本再興戦略・改訂2014」は、概ね妥当な基本的な課題認識を示したが、雇用分野での改革の本命ともいえる「正社員改革」については踏み込み不足で、政策相互の方向性が整合性を欠いており、賃金抑制を狙う「賃金限定正社員」が増加する懸念がある。

雇用分野での目玉政策は
「成果で評価される働き方」の創出

やまだ・ひさし
1987年京都大学経済学部卒業(2003年法政大学大学院修士課程・経済学修了)。同年 住友銀行(現三井住友銀行)入行、91日本経済研究センター出向、93年より日本総合研究所調査部出向、98年同主任研究員、03年経済研究センター所長、05年マクロ経済研究センター所長、07年主席研究員、11年7月より現職。『雇用再生 戦後最悪の危機からどう脱出するか』(2009年、日本経済新聞出版社)『デフレ反転の成長戦略 「値下げ・賃下げの罠」からどう脱却するか』(2010年、東洋経済新報社)『市場主義3.0 「国家vs国家」を超えれば日本は再生する(2012年、東洋経済新報社)』など著書多数。

「日本再興戦略・改訂2014」では鍵となる施策の一つに「担い手を生み出す」として人材活用の改革を掲げ、今春の賃上げを促した政労使会議の継続を示唆する「経済の好循環のための取り組みの継続」を今後の対応の一つの柱に据えている。課題認識が妥当であるにしても、問題は、その実現に向けて有効な施策や仕掛けが組み込まれているかである。結論的に言えば、不十分であるといわざるを得ない。

 現政権は、成長戦略の障害を除く戦略的な取り組みを「岩盤規制の改革」と表現し、雇用分野を農業・医療に並ぶ重点分野として位置付けてきた。今回、雇用分野での目玉政策となったのは、「時間ではなく成果で評価される働き方」の創出である。すなわち、「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度の創出」を、働き方改革の実現に向けた具体的施策の柱に据え、雇用制度改革に今後3年間に集中して取り組むことが表明されている。

「新たな労働時間制度」の創出は重要なテーマであることは確かである。労働時間と成果が比例する定型労働を前提とする現行規制は、実態からのズレが大きくなっているだけに、労働時間規制の見直しは避けて通れないテーマであり、しかも第1次安倍内閣のもとで議論が矮小化されて一度頓挫した課題に再チャレンジし、見直しにこぎつけたことは評価できよう。