川口さんによるベニズワイガニの華麗なる「カニさばき」にかかれば、カニに食べづらい部分は1ヵ所もなかった!カニを食べるときにはいつもそばにいていただきたい……

 じつは当初、会では「カニちらし膳」という案もあった。カニ1匹と酢飯を蒸してはどうかという意見から、蒸してみたもののカニの色味がいまいち悪い。さらに焼いてみたが、うまくいかない。会員の悪戦苦闘が続き「一時はもうダメかと思いました」(川口さん)

 しかし、あるとき、会員のひとりが「ご飯にカニをのせて『紙で包み』オーブンに入れて蒸し焼きにしてみた」ところ、色も香りも抜群の仕上がりになった。

 まさに神技ならぬ「かみわざ(紙技)」である。かくして2011年に「境港新かにめし」が完成。執念で課題をクリアした力作である。

「境港新かにめし」の基本的なルールは、ベニワイガニ1匹を、鳥取県産の米を使った酢飯、錦糸卵、地元の食材と一緒に紙で包んで蒸し上げた「新かにめし」、そしてカニみそを使った茶わん蒸し、旬の副菜、汁もの、香の物のセットであること。これでなんと1300円(税別)! もちろん川口会長が仕入れた「コンディションも上々」のベニズワイガニである。

 協議会に加盟する店舗ごとに、基本ルールをふまえて工夫をこらしたオリジナルメニューの提供をスタートするやいなや、観光客に大好評。1年で1万3000食を販売した。

さかゑやの「境港新かにめし」。濃厚なかに味噌入りの茶碗蒸しを酢飯にのせて食べても美味!

 加盟店である食事処「さかゑや」の「新かにめし」は、酢飯に地元産の砂丘ナガイモやしらす、板わかめを入れて蒸しあげた品。料理長の矢畑史紘さんは「カニの風味をいかして、食感のアクセントになる食材を使いました」と語る。

 目の前に提供された「境港新かにめし」のお膳に、カニの姿はない。「食べ方三か条」と書かれた紙をはずし、白い紙を両手でバリッと破くと、かぐわしいカニの香りがほとばしるようにあふれだす。贅沢すぎるカニアロマにノックアウトされるとともに、そこには鮮やかな紅色のベニズワイガニの姿! いきなり五感を刺激される。「かみわざ」どころか見事な「カニわざ」だ。ほんとうに神様ならぬ、かにさま、ありがとうである。

 ベニズワイガニのうまみが一粒一粒にしみこんださわやかな酢飯に、ナガイモのサクサク感がベストマッチ。ごはんを食べつつ、身をかにフォークでほぐして、ベニズワイガニそのものの甘みを堪能。ごはんに混ぜて食べ進めるのも楽しい。カニ味噌が加わった茶碗蒸しも濃厚なプリンのよう。お膳は、カニを食べる贅沢感と遊び心がいっぱいの「ベニズワイガニのテーマパーク」だ。

「遠方からいらっしゃったお客様も、楽しくて美味しいと喜んでくださいます。小さいときから親しんできたベニが、こんなに喜ばれてうれしいですね」と矢畑さん。

 協議会ではさらに新しいベニズワイガニメニューの開発を続けている。「これをきっかけにベニズワイガニを、もっとたくさんの人に食べてほしい」と川口さんは語る

 おそらく、圧倒的なシェアを誇る境港のベニズワイガニは、日本国民がほぼ冷凍のカニコロッケで、カニグラタンで、カニチャーハンでとなんらかのかたちで、食しているにもかかわらず、「本体を見かけることがない」といういわば「幻のカニ」。しかし、そのものの味わいは「グラタンに埋もれている赤い物体」レベルの話ではない。知らずにいたらもったいない。いわば「赤い宝石」の実力を、ぜひ境港で堪能していただきたい。

<取材にご協力いただいたお店>
■川口商店
http://kani.ocnk.net/

■味処 美佐
http://www.sakaiminato-misa.server-shared.com/

■さかゑや
鳥取県境港市上道町2184-19
TEL0859-42-5400

■境港ベニガニ有志の会
http://blog.zige.jp/benigani/

■境港新かにめし
www.sakaiminato-shinkanimeshi.jp/