スティーブ・ケース 1958年生まれのスティーブ・ケースは、アメリカオンライン(AOL)社のCEOであり、共同設立者でもある。技術とは無縁の分野から身を起こし、インターネットの世界で名声を得た。

 ケースの大学時代の専攻は政治科学で、卒業後に勤務したペプシコ社とプロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)ではマーケティングやセールスを担当した。ところが、しばらくすると起業家の虫がおさまらなくなってきた。まずビデオの会社を立ち上げると、次にはいち早くインターネットに目をつけ、コモドールコンピュータ社のユーザーにネットワーク接続サービスを提供するクォンタムコンピュータ社を設立する。コモドールのほうはすぐに消え去ったが、クォンタムのほうは1989年にAOL(アメリカオンライン)と社名を変え、成長を続けた。

 インターネット接続サービス業界に進出すると、ケースはそのマーケティングの才覚を最大限に発揮した。AOLは1992年に株式を公開、契約者15万人を獲得した。1996年には、パーソナルコンピュータをインターネットに接続するのに必要なソフトを入れたディスクを製作し、その無料配布をはじめとするマーケティングキャンペーンを展開した。このキャンペーンのおかげで契約者は460万人になった。

 1998年、今度はコンピュサーブを買収し、その250万人の契約者を獲得して激しい競争に決着をつけた。この年は企業買収にはずみがつき、ネットスケープ社まで買い取ってしまった。

 ケースによる企業の買収合併は2000年初めにその絶頂を迎える。それはメディアの巨人タイムワーナー社と1億6600万ドル規模の合併をするという衝撃的な発表をしたときだった。その後2001年には、AOLの全世界の契約者数が3000万人に達していた。しかし、通信と放送の融合ともてはやされた「AOLタイムワーナー」は、その翌年、987億ドルという信じられないほど巨額の会計上の損失を出した。

生い立ち

 1958年8月21日、ハワイのホノルルに生まれたスティーブ・ケースは、子どものころから起業家の片鱗を見せていた。自宅の裏庭で1杯2セントのライムジュースを販売したり、近隣で文書類の配達を引き受けたりした。長じては、弟のダンと通販会社、ケースエンタープライズ社を立ち上げている。

 たいていのIT起業家たちは、スタンフォード大学のような西海岸にある技術分野の花形校でコンピュータ科学やコンピュータ工学を学んでいるが、ケースはマサチューセッツ州にあるウィリアムズ・カレッジで政治科学を修めた。卒業後はマーケティングとセールスの分野で働いた。最初はP&G(ヘアケア製品)そしてペプシコ社(ピザハット部門)と続く。そこで初めてインターネットに関心を持つようになった。