手の温まり方と人の評価との意外な関係
北米神経学会で見た「人間関係」の研究

 本連載『黒い心理学』では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 筆者は現在、ワシントンDCで行われている北米神経学会に参加している。神経科学では世界で最も規模の大きい学会で、毎年約3万人が参加する一大イベントだ。日本人の研究者も多数参加している。

 これだけ大きな学会では、理化学系、医学系、生理学系、コンピュータサイエンス、心理学、ビジネスなど、様々な分野の専門家が集まり、その発表内容もバラエティに富んでいる。当然のことながら、全部のプログラムを網羅することは不可能で、全体のコンテンツの10分の1でも見て回ることができれば十分なくらい、神経科学に関連するありとあらゆる催しがある。

 筆者の専門としている、心理学、経済学、ビジネスに関連する神経科学の分野は、まだ始まったばかりの新興領域なので、全体的な研究規模は小さい。だが世界中から研究者が集まるこの学会では、これらの分野に関わる研究だけでも100件近くある。

 その中から、ビジネスに比較的近い研究を1つ紹介しよう。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校のコパング教授らが行った研究は、「物理的な温かさは、人間関係も温めるか?」というユニークなものだ。彼らは、実験室に来てもらった被験者に、待合室で「暖かい飲み物」か「冷たい飲み物」のどちらかを、取っ手のついていないコップで振る舞った。意図的に、近くにテーブルなどの置き場所をつくらず、被験者は自分の手でカップを持つしかない状態だった。

 実はこれが、実験の条件で「手が温まる条件」「手が冷える条件」の2種類を用意した。彼らはその後、様々な人物の写真を見せて、彼らの印象やどの程度関わりを持ちたいかなどを尋ねた。

 その結果、手が温まった条件では、手が冷えた条件よりも、他人をポジティブに評価することがわかった。物理的な刺激が、人間関係の評定とシンクロするのだ。