税理士は税の専門家ではあるが、相続税(贈与税を含む)を得意とする税理士は少ないのが現状だ。下手な相続制対策を打つと、逆効果になることもあるので、ダイヤモンドQ編集部では、税理士は慎重に選びことをお勧めする。

 Fさんは大手広告代理店に勤める50代の男性だ。定年を数年後に控え、将来の生活設計や神奈川県内にある実家の扱いをどうするか思案していた。

 実家は人気沿線の駅前にあり、敷地は150坪もの広さ。5年前に父親が亡くなって母親が相続したが、その母親も今は老人ホームで暮らしている。

 たまたま会社で顧問税理士による無料相談会があったので、実家について相続税がどれくらい掛かるのか、また何か対策はないのか聞いてみた。

 税理士のアドバイスは、「自宅のままでは相続税評価額が高いので、アパートを建てればいいのではないか」というもの。アパートが建っている土地は「貸家建付地」となり、自宅敷地に比べておおむね2割ほど評価額が下がるという。

 ※貸家建付地の評価額=更地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合)

 Fさんは他の兄弟にも相談し、早速アパートを建てることにした。母親は老人ホームに入る際に預貯金をほとんど使ってしまっており、アパートの建築資金はFさんと兄弟が自己資金とローンで賄うことにした。

 アパートは完成後、駅前ということもあってすぐ満室に。ところが、いざ母親が亡くなって相続が発生すると、母親の自宅敷地は貸家建付地としては認められないと言われてびっくりしている。

 なぜなら建物の名義はFさんと兄弟であり、母親の名義は入っていない。また、母親に対して地代等を支払っていなかったので土地の「使用貸借」に当たり、更地のままの評価額となるというのだ。さらに、アパートを建てる際に自宅を取り壊してしまっているので、居住用の「小規模宅地等の特例」の適用も受けられない。

 相続税対策は個々の事例によって千差万別。特例の適用条件等も複雑。相談するのは相続に詳しい専門家でないと、逆効果になりかねない。