安倍政権の安全保障政策を考えるインタビュー・シリーズ。今回は、安全保障の専門家である東京財団上席研究員・渡部恒雄氏へのインタビューをお送りする。渡部氏は、安倍政権の政策は安全保障政策の専門家が普通にやるべきだと考える“宿題”をこなしているだけで特別なものではなく、現実論として集団的自衛権を行使できなければ、二ヵ国間の同盟や多国間の同盟は成り立たず、国は守れない、と述べる。
安部政権は周回遅れの
宿題を片づけているだけ
──安倍政権は、第一次・第二次を通じて、多くの安全保障政策を実行してきました(図参照)。特に昨年7月1日、憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使容認などを閣議決定したことは、大きな議論を呼びましたが、安全保障の専門家として、一連の政策をどう評価しますか。
安倍首相のタカ派的な発言がクローズアップされて、何となく特別に受け取られるけれども、安倍政権の政策は、他の自民党政権や民主党政権でもやるべきだと思っていたこと、やろうとしていたことの延長線上にあります。
集団的自衛権を行使すべきというのも、野田政権時の「平和のフロンティア分科会」(※1)で提案しています。
そういう意味では、安全保障政策の専門家が普通にやるべきだと思っている宿題をやった。武器輸出三原則の見直しなどもそうです。
──安倍政権が考える安全保障政策のゴールはどこにあるのでしょうか。
国としては、周回遅れで宿題を片づけている状況なので、本来ならば幾らでもやることはある。しかし、とりあえず溜まっている宿題を段階的に片づけていこうということで、そんなにあせっても仕方がないと考えているでしょう。
本来なら憲法9条を改正すべきだと思っていても、そこにこだわるのか、集団的自衛権を行使できるという解釈変更で十分と考えるかの違いは大きい。
現実的には、日本の安全保障政策の制約になってくるのは集団的自衛権の話であって、憲法9条の条文を変えなくても、今の問題はある程度は解決する。それからもう一つは、安全保障の場合は相手があることなので、あまり日本が急激に舵を切り過ぎ、それに周辺国が過剰反応を起こすことは、日本のためにもよくない。
ですから、集団的自衛権を行使できると解釈を変える方を優先したのは、バランスとしては悪くないと思います。
※1:2012年、野田政権が日本の中長期的課題を検討するために設置した「国家戦略会議」の下で開催された「フロンティア分科会」の1つ。有識者から構成され、集団的自衛権の行使容認や国連の平和維持活動(PKO)における自衛隊の武器使用基準見直しなどを提言した。