米軍は9月23日、「イスラム国」のシリア領内の拠点に対する航空攻撃を開始した。オバマ大統領は「この戦争は何年も掛かる」と述べており、各国に参戦を求めている。おりしも日本政府は7月1日、集団的自衛権による自衛隊の国外での武力行使を認める閣議決定を行っており、「イスラム国」との戦いに自衛隊が派遣されるのでは、との懸念も聞かれる。その可能性はあるのか。
シリアは「イスラム国」爆撃を支持
前回、9月18日配信の本欄でも述べたように、2011年に始まったシリア内戦で米国、トルコ、サウジアラビア、カタール等は「アサド政権打倒」を目標に、シリア軍から離反した元軍人を主体とする「自由シリア軍」を支持した。だが、この反乱軍はイスラエルを支持する米国の支援を受けていたことが明白であったため、それが一因でシリア民衆の支持が薄く、弱体化した。一方、シリア政府軍は再編成に成功して優勢となり主要都市を次々と奪還し、人口の約7割を再び支配することになった。
その結果、シリア反政府勢力の主力はアルカイダ系のイスラム・スンニ派の武装集団「ヌスラ戦線」及び、あまりの過激、悪辣な行動(人質を取り身代金を要求など)のため、アルカイダからも破門された「イラク・シリアのイスラム国」(略称ISIS、今年6月29日に「イスラム国」樹立を宣言)となった。外国がシリア反政府派に提供した資金、武器、車輌等がISISに流れ、もっとも極端なイスラム過激派武装集団が米国製の軍用4輪駆動車「ハムヴィ」に乗り、M16小銃など米国製の武器を使う事態となった。CIAが、ISISに武器を供与、ヨルダンで訓練している、との報道も米、英であった。
それによりISISはシリア東部に支配地域を拡大し、2014年1月にイラクに侵攻、首都バグダッドの西約50キロのファルージャを占拠、6月にはイラク北部のモスル、ティクリートなどを制圧し、首都バグダッドに西と北から迫る形勢となった。このため米国は8月8日からイラク政府の要請を受け、同国領内のISIS改め「イスラム国」の拠点などを空母「G・H・W・ブッシュ」の戦闘・攻撃機FA18で攻撃した。だが、「イスラム国」の本拠はシリアにあるから、イラクに伸びた枝葉を少々叩いても効果が乏しいのは当然で、米国は9月23日からシリア北部のラッカにある「イスラム国」の本部や、それが支配する東部、デリソール県の油田、精油所などを巡洋艦「フィリピン・シー」、駆逐艦「アーレィ・バーク」からの巡航ミサイル「トマホーク」47発、F22ステルス戦闘機、B1爆撃機、FA18などで攻撃した。サウジアラビア、ヨルダン、カタール、バーレーン、アラブ首長国連邦も攻撃に参加したと発表された。
シリア政府はこれまで米国とその友邦が支援する反政府軍とほぼ独力で戦ってきたから、米国が突如、敵と味方を逆転させ「イスラム国」を攻撃してくれるのは大歓迎だが、「当方の承諾を得てやってほしい」と言ったのは法的に当然だ。だが、米国は従来アサド大統領を敵視し、激しく非難してきたから、シリアと相談して攻撃したとなると国内で「アサドを利す」との批判が起こる。だから米国務省は「シリアに対して攻撃の事前通告を行ったが、承諾は求めなかった」と発表した。実際にはケリー米国務長官は攻撃前日にシリアのムアッレム外相と話し合っており、シリア外務省は攻撃後「テロと戦う国際的努力を支持する」との声明を出したから、実質的には承諾と同然だ。フランスは9月19日からイラク領内で「イスラム国」拠点の航空攻撃に参加、イギリス、ベルギーもイラク領内で攻撃をするが、シリアに対してはまだ攻撃の承諾を求めておらず、当面はやらない方針だ。