【戦略なきM&Aの愚】統合を成功させる条件伊藤友則・一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授

統合を見越した買収を
周到に準備する

――合併は、後戻りができません。戦略と人材という経営の基本が失敗の要因となるような、互いに軽減できないリスクを抱え込む前に、打つ手はないのでしょうか。

 その答えが、第3の条件「十分な準備と統合を見越した買収」です。繰り返しますが、「M&Aありき」で失敗するケースのほとんどが、M&Aがスタートであるという認識と覚悟が不十分なのです。JTがRJRナビスコを買収してたばこ事業を集約したJTIのM&A担当副会長フリッツ・フランケンは、“Failing to prepare is preparing to fail”(準備を十分にしないのは失敗するための準備をしているのと同じだ)と語っています。

 JTは、RJRナビスコやギャラハーを買収する2~3年前から特命チームによる周到な調査を行っていました。それは必然的にM&A戦略の深化とPMI(M&Aにおける統合:post merger integration)の精度の向上をもたらします。買収対象の強みや弱み、市場価値、リスクなどを知り尽くしたうえでの決断が、失敗リスクを軽減させるのです。統合後の課題が多すぎると判断すれば、買収交渉の中止も考えるべきでしょう。

 第4は、「社内およびマーケットとのコミュニケーションを入念に」でしょう。せっかくのM&Aも、事業戦略的な価値を市場や投資家に理解されないことも多々あります。被買収企業の従業員はただでさえ買収による将来不安を感じているので、コミュニケーションはPMIの重要な課題になります。

 私がかつて勤めていた銀行が買収された際、発表の翌日には買収先の副社長が来日して買収の意義を説きました。その迅速かつ合理的、論理的な対応には驚いたものです。経営陣のこうした姿勢が、合併後の融和を左右します。

 そして最後が、「アドバイザーの賢明な活用」です。M&Aでは投資銀行、弁護士、コンサルタントなど多様なアドバイザーの力を借りるわけですが、「外部に丸投げ」している経営者が少なくありません。外部に頼りすぎると、コストも手間もかさむということになりかねません。

 いずれのアドバイザーも、クライアントの事業と業界を知り尽くしているわけではありませんから、アドバイザーの領域と、事業と業界を熟知する当事者自身が評価、判断すべき重要部分を区別しなければなりません。アドバイザーの力を借りつつも、みずからのM&A力を鍛え、知見を蓄積していく取り組みこそが、事業変革力の強化につながるのです。

 さらに言えば、「M&A成功の評価時間軸の設定」にも配慮が必要です。3~5年で成果は出なくても、10年を経て相乗効果が大きく表れるケースもあるのです。その間、経営トップは投資家や株価の厳しい評価にさらされますが、それを乗り越える覚悟と成長ストーリーがなければ、やはり「戦略なきM&A」のそしりは免れないでしょう。

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