「農業予算を減らせと言われかねない──」。ある守旧派の農林水産省幹部は危機感を募らせる。

 悩みの種となっているのが、政府・与党が3月24日にまとめた、向こう10年の農政の基本方針となる「食料・農業・農村基本計画」だ。首相官邸の意向を酌んだ農水省改革派が中心となって策定した。

農政の指針となる新たな基本計画を了承した自民党の農林関係合同会議 Photo by Hirobumi Senbongi

 計画のポイントは二つある。第一に、「食料自給率」の目標を、現実的に達成可能な水準に見直したことだ。具体的には、カロリー(供給熱量)ベースの食料自給率の目標を2020年度までに50%から、25年度までに45%へと引き下げた。一方で、生産額ベースの食料自給率の目標を70%から73%へと引き上げた。

 カロリーベースの食料自給率は13年度で39%と低迷している。高過ぎる目標値は、農林族議員や農協が巨額の補助金を維持・獲得するための大義名分となっていた。逆に、生産額ベースの目標値を引き上げたのは、米から野菜など付加価値が高い作物への移行を促すためだ。

 第二に、食料自給率とは異なる新たな指標として、「食料自給力」を盛り込んだ。食料自給力とは、輸入が途絶えたときに、国内農地をフル稼働するとどれくらいの食料が生産できるかを示したもの。食料自給力の初試算によれば、イモ類などハイカロリーな作物へシフトすれば、現状でも必要なカロリーを確保できる結果となった。

 このため、守旧派の農水省幹部は「従来、穀物生産への補助金に向けられていた予算の根拠が問われかねない」と、同省の存在意義が薄れることに気をもんでいる。

 つまり、この基本計画は、「米依存から、もうかる農業への転換を急ぐと同時に、米中心の農政からの脱却を狙ったもの」(改革派の農水省幹部)なのだ。