IoTのためのクラウド基盤や、スマホ用アプリケーションの開発基盤などを提供し、急成長するITベンチャーのKii。管理本部長の齋藤和紀氏は、大手グローバル企業2社で、経理・財務のスペシャリストとしてキャリアを積み、ITベンチャーのCFOに転進した。その経験を踏まえ、ITベンチャーのCEOとCFOに求められる機能や役割を聞いた。

「朝令暮改」できない経営者に成功は遠い
シリコンバレー・モデルを貫くベンチャーの財務

Kii株式会社 管理本部長 齋藤 和紀
金融庁職員、デル日本法人のファイナンス・マネージャー、ダウ・ケミカルの日本のグループ経理部長を経て、2013年9月に入社

――まずKiiの概要を簡単にご紹介いただけますか。

 Kiiは2007年にモバイルデータの同期技術の会社、シンクロアとして設立され、10年7月にはデバイスサーチの世界的なリーダーである米 Servo Softwareと合併して誕生しました。日本本社の他に米シリコンバレー、上海、香港、スペインなどにオフィスを構え、従業員は約70人。うち30人が日本本社勤務です。IoTやモバイルアプリのバックエンド、つまりソフトウェア開発キット(SDK)やアプリケーション・プログラミング・インターフェース (API)などの機能を、クラウドから提供しています。

――現代のビジネスでは、企業を取り巻く環境は時々刻々変化しており、それだけベンチャーは環境変化に翻弄されやすい。それにCFOはどう対応すべきだとお考えですか。

 私たちベンチャーには、安定など、はなから無縁だと考えています。1年後はもちろん、3カ月後についてだって確定的なことはありえない。そういう“皮膚感覚”があるベン チャーこそ成功するのであり、だからこそ少ない人数でスピード感のある決定を下し、また下せるような環境を自らつくっておかなければならないと思います。

 日本では「朝令暮改」や「君子豹変す」は、腰の定まらないネガティブな言葉としてとらえられがちですが、まさにシリコンバレー・モデルで言えば、朝令暮改や豹変できない君子は、それだけで成功は遠く、彼らは「豹変してなんぼ」だと考えています。Kiiの行動原理は、こうしたシリコンバレー・モデルに貫かれています。

 CFOも同じです。自分たちの構想が現実の変化によってどう変わっていくかはトップが一番知っているのですから、CFOは「戦略は日々変わる」を肝に銘じ、事業戦略の細かな動きではなく事業戦略に貫かれている考え方を理解し、何か事が起これば24時間以内に対応できるシナリオを用意しておかなければなりません。一方で、事業成長や財務成長のための中長期的な体制づくりも進める必要があります。