

「そうはいっても基礎学力が大事」という声も聞こえてきそうです。たしかにそれは正論だし、日本の文化や日本人らしさは守っていくべきです。ただし、特定の分野を極めることが美徳と考えられてきた「日本式プロフェッショナル」の考えは少し改めたほうがいいのではないでしょうか。
かつて、日本はこの独自の考え方によるモノづくりによって世界をリードしてきました。なぜ日本がここまで強くなったかというと、例えば自動車でいうと、その誕生から世界に普及するまで80年にも及ぶ期間があったからです。この長い期間の中で、日本を含めた各国はひたすら技術革新を進め、技術を伝承してきました。私たちはこうした技術革新が利益を生む時代を生きてきたのです。
しかし、今や技術革新だけでは、以前のように長い期間、利益を得続けることは不可能になりました。どれだけ製品の精度を高めても、あっという間にコピーされてしまうからです。
さらに多くの分野で、先人が極めてくれた技術と生み出してくれたパーツで、十分に高品質なものがつくれる時代になっています。自動車でさえ、誰でも買えるモーターと電池を組み合わせれば簡単につくることができますし、実際にインドでは1台30万円で売られています。個々の部品を極めても社会の発展に役立つというわけではなくなったのです。
自動車のモーターは、いくら進化しても基本的な仕組みは変わりません。では、何を変えていけばいいかというと、クルマを楽しむソフトウェアです。パーツとソフトウェアを組み合わせ、システムとしてどういう価値を生み出せるか、これが社会の役に立つかどうかの分岐点になるといえるでしょう。
敷かれたレールの先にあるスペシャライゼーションからは、イノベーションは生まれません。イノベーションとは、ルールの中で効率性を上げていく努力のことではなく、ルールそのものを変えてしまうような独創的なアイデアの実用化のことなのです。