世界で孤立している独裁国家というイメージのある北朝鮮が、外国人旅行者を受け入れるインバウンド戦略を加速させている。本当に外国人が気軽に旅行を楽しめるのだろうか?

金正恩氏肝いりで
インバウンド戦略を続々展開

 5月27日、北朝鮮で開かれた「元山・金剛山国際観光地帯」の投資説明会。中国人投資家や英国、ニュージーランド、日本の旅行会社などを集め、現地のレストランやホテル、鉄道、タクシーなどへの投資をアピールした。

外国人にも大人気のマスゲーム。昨年は開催されず、今年もまだ再開のニュースが出ていないが、北朝鮮を知る事ができる貴重なイベントだ

 なぜ、北朝鮮は外国人観光客を呼び込もうとしているのか?公益財団法人・環日本海経済研究所の三村光弘・調査研究部主任研究員は「外貨を稼げるという点が1つ。もう1つは、ようやく外国人に平壌(北朝鮮の首都)を見せても恥ずかしくないレベルになれたと自信をつけ、自国文化を紹介したいと考えるようになったということではないか」と分析する。

 実際、平壌の街は今や、アジアでは東京とあまり遜色がないほど、清潔だという。

 外国人観光客を誘致すべく、北朝鮮では次々とインバウンド戦略が展開されている。昨年4月には、平壌に観光大学を創設。さらに全国の師範大学(日本でいうところの教育大学)にも観光学部をつくった。師範大学には女子学生が大勢いる。彼らを主な対象に、ガイドになるための教育をしようというのだ。

 ガイドになれば、月給は、たとえば約2000円とコメ45キロといった具合。お客からチップがもらえれば、それはみんなで分け合い、臨時収入となる。ちなみに、普通の公務員の月給は約50円だ。公務員には目に見えない“特権”が多いのだが、さすがに50円では食えないから、奥さんが市場で働くなどして家計を支える。そんな家族の娘がガイドになれば、一家の生活レベルはぐんとアップするわけだ。

 平壌国際空港は現在、ターミナルビルの新築工事が佳境に入っている。本当は今年4月の故・金日成主席の誕生日にお披露目をしたかったようだが、完成がずれ込んでしまった。現在は、10月の朝鮮労働党創建70周年に合わせて完成させると見られている。

 前述の「元山・金剛山国際観光地帯」も、金正恩第1書記の肝いりプロジェクト。スイスに留学したことのある正恩氏は、13年末には「馬息嶺(マシンリョン)スキー場」をオープンさせた。平壌の高麗ホテル前からスキー場行きシャトルバスが出ているが、乗客も少なく、どうやら閑古鳥が鳴いているようだ。

 正恩氏は「他国に負けない国にしたい」と考える現代的な人で、そのあらわれの1つがスキー場なのだが、自国民の多くはスキーができるほど豊かではない。外国人もわざわざスキー目的で北朝鮮には行かないだろう。

「失敗なのでは」と言われている馬息嶺スキー場の例を見ても分かるように、観光客のハートをがっちりつかむインバウンド戦略を打ち出すには、まだ時間がかかりそうではある。しかし、洗練されていないとは言え、北朝鮮には独自の魅力があるのも事実なようだ。