50年前に書かれたドラッカーの『現代の経営』、70年間培われたトヨタ式経営。この2つの間には、驚くべき共通点があった。『ドラッカーとトヨタ式経営』の著者・今村龍之助氏が、トヨタ式経営とドラッカーとの知られざる関係性について語る。

ドラッカーとトヨタ式経営
『ドラッカーとトヨタ式経営』今村龍之助[著]定価1680円(税込)

 トヨタ式経営は脱常識の経営といわれるが、常識を基本に着実にやるべきことを粛々とやり続けていることがわかってくる。脱常識とは、問題解決をするときに、従来の延長線上で解決策を探すのではなく、大胆な発想の転換で解決策を見つけていくことをすすめているのである。

 トヨタ式経営は、お客様の視点を大切にし、原材料や工具・機械などの「目に見える資源」についてはムダを徹底的に排除して有効に利用している。やる気や創造性といった「目に見えない資源」はできるだけ多く引き出し、時間のように「平等に与えられている資源」は誰よりも有効に使うことを考え抜いた経営方式である。

 トヨタ自動車は昭和25年に倒産の危機に直面し、①同じような過ちは二度と行わない、②GMに3年で追いつこうという決意のもと、新たなスタートを切ったのだが、このような非常にシンプルな経営方式をつくりあげていく過程で、何か手本があったのか。私はいつもこのことに問題意識を持って資料を読んだり、取材を試みていたが、50年前のことを知る方々は少なく、当然のことながら納得する解答が得られないままであった。

新聞記事に衝撃を受ける

 ある日突然、この解答が得られるのではないかというインスピレーションが、2005年2月23日の日本経済新聞の記事を見たときにもたらされたのである。

 その記事とは日本経済新聞の「私の履歴書」欄である。ドラッカー教授が登場し、「1950年代前半に、私の助けを借りてコンテストの結果はトヨタ自動車へ持ち込まれ、同社の終身雇用や労使協議政策の面で生かされたのだ。当時のトヨタは労働争議に見舞われ、創業者の豊田喜一郎が社長辞任に追い込まれるなどの苦境にあった」と記されている。

 このコンテストとはGMの30万人の従業員意識調査のことであり、この調査結果をベースに仕事改善プログラムと名づけたQCサークルをスタートさせようとしたものである。

 この計画はGMで活用されることなく、倉庫の中に閉じ込められてしまっていたのが、トヨタ自動車に持ち込まれ、日の目を見ることになったというのである。