一般的には、欧米人に多く、アジア人には少ないがんと考えられていた前立腺がん。生活習慣の欧米化に伴い、日本人の前立腺がんの罹患率は増加傾向にある。国立がん研究センターが発表した2015年の部位別予測がん罹患数では、男性は胃がん、肺がんを抜いて前立腺がんが1位と予測されている。今後、急増が予測される前立腺がんに私たち日本人はどのように向き合っていくべきか。都立駒込病院の鳶巣賢一院長に聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)
なぜ前立腺がんの患者数は
2000年前後から急増したのか
――前立腺がんとは、どのような病気ですか。
がん・感染症センター都立駒込病院院長。1982年京都大学医学部卒業後、同大学医学部付属病院泌尿器科研修医、滋賀成人病センター泌尿器科医員、 国立がんセンター病院泌尿器科医員、同院泌尿器科医長、国立がんセンター中央病院総合病棟部長を経て、 2002年静岡県立静岡がんセンター病院長。2011年静岡県立静岡がんセンター名誉院長、 聖路加国際病院 がん診療特別顧問。2014年より現職。
前立腺は、男性特有の臓器で、膀胱から尿道に向かって、尿が出ていく出口のところに巻き付くように存在しています。大きさはクルミくらいです。役割としては、生殖に欠かせない精液の一部である前立腺液を分泌しています。この前立腺にできるがん細胞を前立腺がんといいます。肝臓や腎臓にできるがん細胞は、ゆで卵のようなかたまりになるケースが多いのですが、前立腺がんの場合は、高分子から低分子まで、がん細胞がパラパラと散在しているのが特徴です。
――前立腺がんの患者数は、増加しているのでしょうか。
そうですね。前立腺がんは加齢とともにリスクが高まりますので、高齢化社会が進む日本においては患者数が年々増加しています。2011年には、男性の部位別がん罹患数で第2位となっています。
もう一つ、大きな理由として挙げられるのが、診断技術の進歩です。実は、前立腺がんの患者数は、1990年前後から急増しているのですが、これは日本でPSA(前立腺特異抗原)測定が普及し始めた時期と一致しています。PSAは、前立腺から分泌される酵素の一種で、がんや炎症など前立腺に異常があるとPSAが血液中に漏れ出してきます。そのため、血液検査によってPSAの値を測ることで、前立腺がんのリスクを診断できるようになりました。