四の五の言わずに行動するから、
「好きな人生」に出会える

安藤 とんでもありません。『冒険に出よう』にも書いたとおり、独立してしばらくはどん底生活でした。あのときは完全に「悩んで」いましたね……。会社を辞めて半年間、ほんとうにひとつも仕事がなくて、ふさぎこんでいたんです。「20代は投資だ!」と書いてある本を素直に信じて、たいして貯金もしていなかったし(笑)、通帳の「入金」欄にはゼロが続くだけ。一方で、ただ生きているだけで残高はみるみる減っていく。「絶対に成功します!」とぶち上げて退職したのに……。

森川 仕事がないというのはつらいですよね。

安藤 はい。だから、その時期は外に出ても「こんな現状を笑われたらどうしよう」とビクビクしていました。いろいろな人から「集英社辞めたんだって? いま、何やっているの?」とメールが来るのに、答えられない。それも恥ずかしくて……。

森川 わかります。

安藤 そんな私を救ってくれた友人がいるんです。私が自分の弱みを見せられる唯一の友人といってもいい女性です。彼女が、「仕事がない」と途方に暮れている私を見て、こんな言葉をかけてくれたんです。「今のあなたは、淀んだ水と同じ。動いていないから自分が淀むの。行動によって水に流れをつけてあげないと」という言葉なんです。「美冬は、ブルドーザーみたいに道を切り開いていく行動力と熱量だけでここまでやってきた。いまの美冬には、そのどちらもないじゃないか!」と叱ってくれて。「恥をかくくらいなんだ!」と。

森川 素敵なご友人だなあ。

安藤 はい。ハッとしました。そこからは完全に、本気モードです。どんな仕事でも喜んで受けようと思えました。それから最初に声をかけてもらった仕事はホームページのリニューアルだったのですが、一ヵ月かけてギャラは3万円(笑)。

森川 完全に赤字だ。でも、実績になるし次につながりますよね。

安藤 ええ。四の五の言わず、「行動すれば流れが生まれるんだ」と信じて、必死に仕事に取り組みました。そうやっていただいたお仕事にはすべて全力でぶつかっていったら、次の仕事が入ったり、ほかの人に紹介してもらえたりして……。そうそう、とにかく仕事をつなげたくて、「○○について詳しい?」と聞かれたら、少しかじったことがある程度でも「詳しいです!」と即答していました(笑)。

森川 20代のうちは、ハッタリも大事ですよね。手を挙げないと、チャンスは回ってきませんから。

安藤 とりあえず「できます!」「やります!」と宣言してしまうので、任せてもらってからのキャッチアップは必死でした(笑)。でも、そうするうちに、来週の自分の予定もわからなくなるくらい、たくさんのプロジェクトに関わるようになって。その働き方は、興味関心が広い自分の性格にも合っていたし、プロジェクトごとに集まってはまた去っていく人との出会いが愛しくて、「この人生」が好きになっていきました。「ここを生きよう」と思うようになったんです。

森川 「ここを生きよう」。いいですね。四の五の言わずに行動して真剣に取り組んだからこそ、その先の道が開けたのでしょう。

安藤 そう思います。森川さんはまた、LINE(株)CEOを退任して、48歳で起業という険しい道を選ばれました。いまも当然「本気」だと思いますが、それを含めて、人生でいちばん本気でがんばったのはいつだと思いますか?

森川 そうですね……。日本テレビからソニーに転職して、ジョイントベンチャーを立ち上げたときかな。当時は、朝4時から深夜2時まで、ずっと仕事をしていました。電車のなかでも立ちながらパソコンを開いていましたし(笑)。

安藤 うわあ、すごい……。

森川 そんな生活を2年間続けていましたからね。いまの自分のがんばりは足りないくらいだと思っていますよ。