「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。
あらゆる会社が抱えるジレンマ
守ると攻められない──。
僕は、これこそ変化の時代を生き抜く「経営の鉄則」だと考えています。
「新しいもの」は多くの場合、「古いもの」を否定する側面があります。ところが、厄介なことに、あらゆる企業は「古いもの」で成功してきたからこそ今がある。だから、どうしても「古いもの」を守ろうとして、「新しいもの」に適切に対応できなくなってしまう。つまり、攻めることができなくなってしまうのです。
それを痛感させられたことがあります。ソニー在職中のことです。僕は、一時期、モバイル事業を提案する部署に所属し、モバイルとコンテンツをネットでつなぐ新規事業を立ち上げようとしていました。しかし、そこで目撃したのは厳しい現実でした。
当時、ソニーもiPodと同じようなアイデアの製品化を進めていました。ところが、僕には、プロダクトがどんどん歪んだ方向へ向かっているように思えてなりませんでした。というのは、自社所有のコンテンツの違法コピーを防ぐために厳重な技術的制限をかけようとしていたからです。
たしかに、コンテンツが違法にコピーされれば、著作権者の利益はもちろん自社利益も守ることができません。しかし、そのためにユーザーが求めていないものをつくってしまうのは、やはり違う。結局、インターネットという「新しいもの」への対応を誤り、「守るべきもの」のなかったアップルに負けてしまったのです。
ところが、僕は同じ過ちを犯すことになります。