ライセンス・ビジネスをグローバルに成功させたサンリオ(株)の鳩山玲人氏と、LINE(株)でグローバル・サービスを世に送り出した森川亮氏の対談が実現しました。グローバルに活躍するおふたりは、どんなスタンスで仕事に向き合っているのか?何を考えているのか?それぞれの著作『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(鳩山玲人著、幻冬舎)、『シンプルに考える』(森川亮著、ダイヤモンド社)から引用した言葉をもとに、たっぷりと語り合っていただきました。(構成:田中裕子、写真:村田康明)
「僕、実はコンプレックスがあるんです」
鳩山玲人さん(以下、鳩山) 唐突ですが、僕、実はコンプレックスがあるんです。
森川亮さん(以下、森川) ええ? それは、意外ですね。どんなコンプレックスですか?
鳩山 自分のキャリアについてです。僕は新卒で三菱商事に入社したんですが、数社の出向を経て在職中にハーバード・ビジネス・スクールに留学。卒業と同時にサンリオ米国法人に転職しました。そして、それまで未開拓だったライセンス・ビジネスを仕掛けたんです。それが、34歳のときですね。
森川 34歳でしたか。攻めてますよね?
鳩山 だけど、当時のサンリオは業績低迷に苦しんでいたとはいえ、東証一部上場企業ですからね。はたから見ればリスクを取らない保守的な転職、保守的なキャリアと映ることでしょう。起業したことがないということに、コンプレックスを感じている自分もいて……。
森川 なるほど。
鳩山 もちろん、「いち会社員」としての矜持はありますよ。与えられた環境で、周囲の予想を上回る活躍ができたんじゃないかな、と。それでも、自分のなかでは起業家への憧れがずっとありました。その思いが強かったからこそ、今回、新しい挑戦をすることにしたんです。
森川 おお。いったい、なにをされるんでしょう?
鳩山 ちょっと前に報道された、「ハローキティ、2019年ハリウッドデビュー」というニュース、ご存知ですか?
森川 ああ、見ました! なんでも、200億円規模の映画をつくるとか。
鳩山 はい。このビッグプロジェクトをはじめ、映画やアニメ、デジタル事業をグローバルに展開するための新会社「サンリオ メディア&ピクチャーズ・エンターテインメント」のCEOに就任したんです。そのために、サンリオ社内のほかの役職はすべて退任。僕なりの「起業」かな、と思ってるんです。
森川 なるほど。そんな思いもあったんですね。
鳩山 これから「映像」の時代になるのは間違いないと思っているので、面白い仕事ができるんじゃないかと意気込んでいます。そういえば、森川さんも3月にLINE(株)CEOを退任され、C CHANNELを起業されましたね。……あ、C CHANNELも映像ビジネスですね!もしかして僕ら、コンペティターになるんですか?(笑)
森川 いやいや、お互い新しい時代を拓いていきましょう(笑)。
「負の経験」こそが、キャリアを拓く
――おふたりとも、さまざまなキャリアを積まれた末に、奇しくも同じ映像の世界で起業されたわけですね。ところで、『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)と『桁外れな結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(幻冬舎)を読んでみると、おふたりとも「うまくいかなかった経験」がキャリアの転機になっているようです。「負の経験」は、キャリアをつくる原動力になるものでしょうか?
鳩山 それは間違いないですね。じつは……僕がサンリオで実行したライセンス・ビジネスは、着任してから考えついたものではないんです。三菱商事時代に一度失敗して、ハーバード・ビジネス・スクール時代に何度も練り直したシナリオを実行に移したんですよ。
森川 それは、驚いた!
鳩山 僕、三菱商事で働いていたとき、サンリオに「一緒にライセンス・ビジネスをやっていきましょう」と提案していたんです。「三菱商事の人材とインフラを使えば、もっとグローバルに展開できるはずですから、ぜひ提携しましょう」と。でも、うまくいかなかった。「鳩山君の言うことはわかるけど、それってウチだけでもできることだよね?」と言われて、当時の僕はぐうの音も出なかったんです。
森川 一緒にやるメリットを示せなかった、と。
鳩山 ええ、信頼を得ることができず、深いパートナーになれなかった。いま振り返ってみると、「これ、面白いですよ」とプロジェクト・ベースでしか提案できていなかったし、マネジメントの視点が欠けていたとわかるのですが……。
森川 でも、その失敗が今の鳩山さんの糧になった、と?
鳩山 そうなんです。どうすれば、ライセンス・ビジネスを実現できるかという思いが、ハーバードで学ぶ動機でもあったんです。入学する際のエッセイもこの経験について書いたし、ビジネススクールでの研究テーマも「サンリオのビジネス」でした。とにかく、2年以上費やして考え続けたんです。
森川 すごいな……。でも、それが成就するかどうかもわからないわけですよね?
鳩山 いやぁ、いま思えば、たしかにそうですよね(笑)。でも、サンリオの辻副社長から「ウチに来ないか」とお声がけいただいたときに「行きます!」と即答できたのは、手痛い失敗としつこく諦めずに追い求めた2年があったからこそでしょう。まあ、誘われなくても自分の学びになっていたのは間違いないですし。
森川 たしかに、それはそうですね。
鳩山 それで、2008年にサンリオに入社してからは、三菱商事、ハーバード時代に練りに練ったプランに即して舵取りをした、というわけです。
森川 はー、粘り勝ちだ。じゃあ、もう「やりきった感」があるんじゃないですか?
鳩山 うーん、少しは(笑)。だから次のフェーズに移ってもいいかな、と思ったんです。
人間、努力しなくてすむなら絶対に努力しない
鳩山 そもそも、僕の社会人人生、失敗だらけなんです。三菱商事からエイベックスに出向したときも、キャラクター事業を立ち上げようとして大失敗していますし。ご存知ですか? 「エポケ」という……。
森川 ああ、「エポケ」! 覚えています!
鳩山 ありがとうございます(笑)。イスラエルのIT企業と組んで、3Dキャラクターが動くソフトウェアをつくろうとしたんです。エポケ内でメールやブラウザ、コミュニティなどをすべて完結できる仕組みをつくろう、と。エイベックスの依田会長にこのビジネスのポテンシャルを聞かれたときに「無限大です!」とドヤ顔で答えたのに、計画はうまく進まず、結果は惨憺たるものに……。
森川 まあ、新しいことって、だいたい失敗するものですからね。
鳩山 ただ、あの失敗で「キャラクター・ビジネスとは何か」がわかったし、エポケに着手する前にエイベックスで手がけた音楽配信の事業拡大の経験も今に活きています。失敗や経験から貪欲に学ぶことこそ大事なのかな、と。
森川 うまくいかないからこそ、いつかやってやろう、なんとかしようと思うんですよね。人間、努力しなくてすむなら絶対に努力しませんから(笑)。そして、その努力が実を結ぼうと結ぶまいと、不思議とゆくゆくの仕事にもつながるものです。
鳩山 わかります、わかります。
森川 僕も日テレ時代、日テレが所有する動画の海外配信を手がけてそこそこ波に乗ったんです。でも、「そこそこ」止まり。日本人向けの動画が、そのまま海外で通用するはずがありませんから、やはりコンテンツそのものをつくりかえないとダメだと気づいたんです。ソニー時代も「そこそこ」でした。ソニーで着手したネット配信も数十億円規模のビジネスにはなったのですが、時代的にビジネス化には早かったのか、波に乗りきれなかった。
鳩山 ええ。
森川 失敗したわけじゃないですが、なかなか成功できなかった。「なぜか?」と考えたときに、結局、業界のスピード感だと思ったんです。当時は、テレビも電機も本業が好調だったから、わざわざリスクをとって新しいビジネスに積極的に投資はしない。そこで、「ゲームのほうが流れが速そうだ」とハンゲーム・ジャパンに行き、インターネットの世界に飛び込んだんです。そして、オンライン・ゲームで日本ナンバーワンになり、LINEで世の中のコミュニケーションを変えて、いま、こうしてまた動画の世界に戻ってきたわけです。
鳩山 技術もインフラも整って、動画の海外発信をするならいまだ、というわけですね。
森川 もはや、スマホで撮影してスマホで編集できる時代ですからね。C CHANNELで活躍している女の子たちも、その場でアプリを使って加工したり、エフェクトをかけたり、自由自在に映像をつくっています。
鳩山 映像編集へのハードルが低くなれば、より身近なものとして爆発的に普及していくでしょう。森川さんからすると、ようやく、ですね。
森川 そうですね。こうして振り返ると、うまくいかない時期があったからこそ、今があるんだと、改めて思いますね。
――『シンプルに考える』にも、「失敗の原因を突き止めて、次のチャレンジに活かす。あきらめずに、そのサイクルを回し続けることで、必ず成功に近づくことができる」と書かれていますね。
森川 はい。人生も仕事も、たいていのことはうまくいきません。だけど、うまくいかないときこそ、実は、成功に近づいているんじゃないかと思います。大事なのは、「うまくいかない理由」をとことん突き詰めて、本質的に重要なことに100%集中すること、全力で行動することです。うまくいかないからといって言い訳したり、落ち込んでたって意味がないんです。
鳩山 そのとおりだと思います。
<続>