「今年は実質賃金も上がりそう」
「労働市場の改革が重要課題」

飯田 そうした環境を国内の景気に本当につなげていけるかどうかは、経済政策以上に、企業がどういった活動に重点を置いていくか、中でも企業が人間にお金を払うようになるかが、最重要だと思います。

 やはり、しっかりとベアをしてくれる会社、賃金を上げてくれる会社に対しては、忠誠度が上がっていく。これは行動経済学や労働経済学の研究者も言っていますが、働いている人間のやる気で、企業のパフォーマンスはまるで変わってしまう。従って、最初のところでちょっと言い漏らしましたが、春闘は注目テーマです。ここまで外的な環境が良いのだから、少なくとも春闘に出てくるような大きい企業が「賃金を上げて人を抱え込みたい」という姿勢を明確にすると、だいぶ流れが違ってくるのではないか。

──賃金が上がるかどうかは、国民の景気実感という意味でも重要ですね。

おぐろ・かずまさ
法政大学経済学部教授。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、キャノングローバル戦略研究所主任研究員、鹿 島平和研究所理事、厚生労働省参与などを兼任。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省、 一橋大学経済研究所准教授などを経て現職。著書に『財政危機の深層』『アベノミクスでも消費税は25%を超える』『2020年、日本が破綻する日』など。
Photo:Masato Kato

小黒 経営者としてはなかなか賃金を上げにくいですが、テンポラル(一時的)なものはたぶん大丈夫でしょうね。賞与とか、非正規の人たちの給料とか。

飯田 ボーナスと非正規の給料は上がっていますね。一時「賃金が下がった」と騒がれましたけれども、あれはかなり“ニューカマー効果”が大きかったようです。今まで働いていなかった新人が入ると、平均賃金は当然下がりますから。何と言っても3%の消費増税分の影響があります。そのため昨年前半までは、実質賃金は下がっていましたが、今年くらいには“実質賃金が上がった”と明確に言える状態になるのではないでしょうか。

──企業の意識を変えるには、政府の成長戦略が不十分だという意見も、依然として多くあります。

小黒 飯田先生が指摘するように、GDPの成長は三つの要素に分解できる。一つは生産性、つまり技術進歩の伸び。次に資本ストック、つまり工場などの生産設備の伸び。もう一つは労働力の伸びです。

「一億総活躍社会」はどちらかというと、この中の労働力にターゲットを当てているのではないかと思うのですが、重要なのは、単に労働力を伸ばすだけではなく、労働市場改革を行わなければならない、ということです。衰退産業からまだ伸びていくところに、人が移動していくような仕組みを作る。政府もやろうとはしていますが、実際には進んでいない。労働力の流動化は“痛み”が出ますから、同時に当然、セーフティネットをどうするかということを議論しなければならない。それも残っている課題ですね。

飯田 「一億総活躍社会」という点では、やはり労働力を増やすという話になるのですが、実はこの労働を増やすことによって「技術」を上げる方向も十分考えられる。