写真フィルムの急激な衰退から液晶パネル用フィルム事業へと転換を果たした富士フイルム。次なる事業の柱は医薬品や化粧品事業。ベースにあるのは写真フィルムで培った技術の転用だが、はたして成功するのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

 それは2度目の危機だった。

 創業事業の写真フィルムの衰退という危機を乗り越え、液晶パネル用フィルムメーカーに転身を果たした富士フイルム。圧倒的なシェアを握り、わが世の春を謳歌していた最中に、米国発の金融危機が襲いかかった。右肩上がりの液晶テレビの売れ行きは急速に落ち込み、液晶パネル用フィルムの需要も一気にストップした。

 「2008年10月~09年2月の5ヵ月間、オーダーが止まってしまった」(浜直樹・フラットパネルディスプレイ材料事業部担当部長)。顧客である偏光板メーカーや液晶パネルメーカーは大量のフィルム在庫を抱えており、在庫の消化で当座をしのごうとしたためだ。

 「富士フイルムの量産計画が、液晶テレビの量産計画を左右する」(業界関係者)といわれるほどの高いシェア。偏光板の保護フィルムであるTACフィルムの世界シェアは80%、このTACフィルムに有機化合物をコーティングして視野角を拡大する機能を持たせたWVフィルムに至っては、シェア100%にもなる。だがこのシェアの高さが、反対にオーダーストップの影響を大きくした。

 実際、08年度の液晶パネル用フィルムを含むインフォメーション事業の営業利益は、通期で黒字を確保したものの、第3、第4四半期はそれぞれ128億円、141億円の営業赤字に陥った。

 もっとも、09年3月からは一転、需要が急速に回復。生産能力の増強が必要になるほどで、富士フイルム九州の第6ラインを前倒しで稼働させた。累計約1100億円を投資したこのラインの稼働によりTACフィルムの総生産能力は、6.8億平方メートルに達し、需要の大半を供給できる体制が整った。だが、「拡大する余地はまだ十分ある」(坂本敏・富士フイルム九州社長)と強気の姿勢を崩さない。