生活保護では、保護費の範囲で生活することは要求されるが、保護費の用途は自由である。しかし2015年末からの「生活保護でパチンコ」をめぐる議論では、しばしば「保護費の用途は自由」であることが忘れられた。一体、「生活保護でパチンコ」の何が私たちの心を騒がせ、エキサイトさせてしまったのだろうか?
「生活保護ならパチンコ禁止」への
長い経緯と深すぎる背景
2015年、大分県別府市において生活保護利用者9名に対し、「パチンコ店・競輪場への複数回の入場入店」を理由とした保護費の一部不支給処分が行われた。このことは報道されるや否や、賛否とも大きな反響を巻き起こした。また、多数の自治体で、生活保護ケースワーカーによる生活保護利用者のパチンコ店等への立ち入り調査が行われていることも判明した。
2016年3月、厚生労働省・大分県は、別府市および同様の調査・処分を行っていた中津市に対し、処分を不適切とする指導を行った。これを受けた両市は、今後、同様の処分は行わない方針とした。また別府市ではケースワーカーが依存症に関する研修を受けるなど、文字通り困っている「生活困窮者」本人と「生活困窮」そのものに向き合う希望が感じられる方向性も見えてきている。なお本件については、読売新聞・原昌平記者がシリーズ『貧困と生活保護』で「パチンコと生活保護をどう考えるか」という非常に分かりやすい解説を発表したばかりだ。ぜひ、参考にしていただきたい。
私も継続して発端や経緯を調べているが、それほど単純明快ではなさそうだ。別府市では同様の調査を25年前から行っていたとのことであるが、九州以外の地域でも、20年以上前に同様の事例が見受けられる。開始された動機の詳細を明らかにできるほどのデータは未だ手にしていないが、「ケースワーカーとして、納税者を代表して生活保護利用者を締め付けようとした」ではなく、「ケースワーカーとしての職務に対して熱心に、生活保護制度と制度利用者のためにすべきことを追求していたら、なぜかこうなった」という節も見受けられる。調べれば調べるほど「なぜ?」「どうして?」は増えていくばかりだ。
私はさらに、「生活保護とパチンコ」について確かな意見を持つべく、福祉国家の持続可能性について研究している社会福祉学者・菅沼隆氏(立教大学教授)、貧困問題を題材とした作品を世に問い続けている漫画家・さいきまこ氏、東京都内の生活保護の現場で働く若手ケースワーカー・石原真(仮名)氏にお話を伺った。結果、未だ「正解」「定説」「決着」に至っていないものも含め、さらに数多くの論点が含まれていることが判明した。あまりにも多岐にわたる論点は、下記の表に整理する。
今回から数回にわたり、私の「なぜ?」「どうして?」と菅沼氏・さいき氏・石原氏のコメントを、なるべくそのままの形で提供し、考え始めるためのベースを読者の皆様と共有したい。
今回は「生活保護でパチンコ」へのバッシングについて、菅沼氏とさいき氏の意見を中心に紹介する。