近年ブームとなっているクラフトビール。縮小を続けるビール市場の救世主として、大手も参入し始めた。しかし、小規模醸造が信条のクラフトビールが装置産業のビール業界で生き残るのは極めて難しい。クラフトビールは日本で生き残れるのか──。かつての地ビールブームが終焉に至った理由や海外ビール市場との違いを分析しながら、クラフトビール業界が抱える問題をあぶり出す。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

 時計の針を巻き戻すこと2年。当時、シェア争いの激しいビール市場で“独り負け”だったキリンビールは、復活を懸けたある戦略を練っていた。

「自社のビールに“革新的な”イメージを付与することで、一強状態の『アサヒスーパードライ』の牙城を崩す」──。

 キリンはかつて業界のガリバーと呼ばれ、保守的な風土が強い組織だった。しかし、1987年発売のスーパードライのヒットにより01年に首位から陥落。シェアの回復、そしてアサヒビールからの首位奪還が至上命令だった。

 ところが、価格競争だけでは日本一の販売数量を誇るスーパードライに勝ち目がない。そこでキリンは保守的な企業風土を捨て、イメージ戦略の転換を決断した。

 自社ビールの“新しさ”を打ち出すことで、スーパードライを相対的に“古いビール”に仕立て上げようと考えたのだ。

 そこでキリンが目を付けたのがクラフトビールだった。

キリンは14年7月にクラフトビールに本格参入。同業他社を驚かせた。写真はキリンビールの磯崎功典社長(当時、現在はキリンホールディングス社長) Photo:REUTERS/AFLO

 クラフトビールとは一般的には、小規模で醸造されるビールで、独特の味わいと香りが特徴である。「どれも同じ味」と揶揄される大手のビールに対し、2000年代後半から若者を中心に着々と支持を集めていた。それゆえ、キリンの保守的な企業イメージを転換するのにうってつけの存在だったのだ。

 キリンは、14年7月にクラフトビールブランド『SPRING VALLEY BREWERY』を設立。14年9月には、クラフトビール最大手のヤッホーブルーイングとの提携を発表し、ついに大手メーカーがクラフトビールに本格参入した。