南シナ海問題をめぐる仲裁判決
官民一体で"内宣"する中国
「南シナ海問題をめぐる仲裁判決が下されて以来、中国はまさに統一戦線を展開するかのごとく、官民一体でネガティブキャンペーンを張っていますね。正直、ここまで猛烈になるとは予想していませんでした」
7月下旬、私は北京の天安門広場からそう遠くない一角で、国営新華社通信で国際報道を担当する旧知の記者と向き合っていた。
「これは"内宣"です。主権や国益に関わる南シナ海問題ですから、国内世論が乱れることを上は恐れているということです」
"内宣"とは、「国内向けの宣伝工作(筆者注:いわゆる"プロパガンダ"と同義語に捉えていいであろう)」のことを指す。それに対して、"外宣"が「国外向けの宣伝工作」を指し、中国国内では往々にして両者が対比的に語られる。
私は続けて聞いた。
「党や政府機関はともかく、研究者たちも全く同じトーンで中国の立場が完全に正しいと主張し、異なる見方や視角は全く見られません」
先方は苦笑いしながら答える。
「一切の異見は許されません。それだけでなく、党の立場や主張を宣伝するように指名された研究者は、その任務を全うしなければなりません」
7月12日、南シナ海の領有権問題などを巡ってフィリピンがオランダにあるハーグ常設仲裁裁判所に提訴していた判決が世に出された。当時、私は日本にいたが、日本のメディアはその動向を大々的に報じていた。
従って、事の成り行きや判決の詳細に関しては割愛するが、簡単にレビューしておくと、周知の通り、判決はフィリピン側の主張を全面的に受け入れるものであった。中国が南シナ海の大半に歴史的権利を持つとの主張は無効であり、中国が支配する岩礁も海洋権益の基点にならないとした。特に焦点になったのが、中国が独自に主張する境界線"九段線"であるが、これについても国際法上の根拠がないとする判決を出し、中国が同海域で進める人工島造成などの正統性が疑問視されることになった。