データサイエンティストのクリスチャン・ラダーは、世界最大級の出会いサイトを運営するうえで、時に壮大なムダとも思えるような実験を行っていた。8月4日に発売された新刊『ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす ビッグデータの残酷な現実』の著者であるラダーのアプローチについて、前回に続き、ニュース配信サービス「スマートニュース」のデータサイエンティストたちに聞いてみた第2弾。(構成・松崎美和子、撮影・寺川真嗣)
出会いサイトなのにプロフィール写真を削除!
前代未聞のおバカ実験「CBD」とは?
――著者のラダー氏は、これまでに様々な実験をしたそうです。時には「超バカバカしい」とも思える謎の実験まで貪欲に……。同じデータサイエンティストとして、西岡さんはどんな部分に注目されましたか?
西岡:一番面白かったのは、アプリ「クレイジー・ブラインド・デート(CBD)」を使った実験ですね。
――「CBD」は、ラダーたちが開発した、お互いの名前と不完全なサムネイル画像だけをヒントにデート相手を探すアプリ。待ち合わせ場所にどんな相手が待っているのかは会ってみてのお楽しみ、という趣向でした。ラダーはこの新アプリリリースの話題作りのために、1日だけ出会いサイトのすべてのプロフィールから一時的に(9~16時までの7時間)写真を削除する実験を行いました。
西岡:まずは、こんなことを実行に移してしまうんだ!とびっくり。バカバカしく見えますけど、実は手間も暇もかかる壮大な実験ですからね。
――その結果を示したのがこちらの図ですね。
――相手の写真が消えると、新しい相手と会話を始めるユーザーの数は一気に減り、写真が復活すると急増しています。結果としては、ユーザーから「前もって相手の顔を見たい」という要望が高まって失敗に終わりました。当たり前ですよね(笑)。ところが、この時にアプリを利用した約1万人のデータから、意外な真実が浮かび上がったと。
西岡:はい。「お互いの外見は、実際のデートを楽しめたかどうかにほとんど影響しない」というのは面白い結果でした。
――女性はCBDデートで過ごした時間の75%、男性は85%を楽しんでいたというデータが提示されていますね。オンラインではあらかじめ相手を慎重に選別するけれど、実際に顔を合わせると、外見の選別の条件はあまり結果に影響しないことが分かります。
西岡:顔の分からない人とデートしてみても、大体満足しているってことですよね。ばかばかしい思いつきではあるけれど、きちんとここまでデータに落とし込んで伝えているというのはすごいですよ。私は好きですね、こういうクレイジーな実験(笑)。
西尾:納得の結果ではありますね。
小田:日本でも同じような「覆面合コン」って一時期話題になりましたよね。相手の容姿やバックグラウンドに影響されず合コンをセッティングしたほうが、相手の本当の魅力が分かる、みたいな。