倫理の参考書が「ビジネスの最強の教科書」である理由

マッキンゼー・アンド・カンパニーなど要求水準の高いビジネスの現場を渡り歩き、「可能な限り優れたパフォーマンスを実現するためにはどうすべきか?」と試行錯誤してきた著者が提案する、ビジネスパーソンのためのまったく新しい学習法『新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法』。佐藤優氏が「ビジネスパーソンにとって本当に役に立つ最良の書」と絶賛するなど話題の同書より一部を特別公開する。

そもそも「倫理」とは何なのか?

 私はビジネスパーソンこそ大学受験参考書の「倫理」を学ぶべきと考えています。その理由を語る前に、まずは「倫理とはどのような科目なのか」を説明しましょう。

 倫理と道徳の違いについては確たる定義がないので、倫理というと、小学校の道徳の授業と混同されがちですが、この本では区別して考えます。

 道徳の授業は「人間として、こういうことが正しい」「こう生きるべきだ」という示唆を与えるものです。一方で、「ならぬものはならぬ」というように、しばしばイデオロギーや価値観の植え付けにもなる危険があると私は考えています。したがって道徳は試験科目になり得ませんし、またすべきでもありません。

 他方、倫理は、さまざまな物事の本質を学び、自ら考える糧とするものです。

「物事の本質」と述べましたが、大学受験の科目としての倫理は、哲学、人間心理、宗教などに関する、これまで人類が思考してきたことのエッセンス集です。

 その中にはギリシャ哲学や東洋思想、イスラム教、キリスト教、仏教といった古代思想・宗教の話もあれば、デカルト、スピノザのような近代思想、ホッブズやロックが唱えた市民社会についてなど幅広い内容が網羅されています。

 この点について、『理解しやすい倫理』(藤田正勝、文英堂)の前文が見事に語っています。

(人は)何のために生きるのか、どのように生きればよいのかといったことを、自分の問いとして問いながら生きています。
 みなさんも(中略)自分には何ができるのか、何を目指して生きていけばよいのか、といったことを考えているのではないでしょうか。そうした問題を考えるうえでの手がかりが倫理のなかにはあります。倫理とは、先人たちが、いま挙げたような問いと格闘してきた歴史であり、その結晶であるからです。(太字は引用者)

 道徳が社会通念を規定するものであることに対し、このように、倫理とは、人が能動的に考えるための知識や世の中の見方を提供してくれるものです。

 倫理で学べることは、具体的には次の2つのことです。

(1)人類誕生以来の叡智を総合的に学べる
(2)物事の分析の仕方を学べる

 人類はこれまで「人間とは何か?」「自分とは何者なのか?」「大人とは?」「社会とは?」「国家とは?」「自由とは?」など、この世におけるさまざまな根源的なテーマを考えてきました。これらのテーマについて、とくに過去の偉人たちがどのように考えていたのかを学ぶのが、倫理を学ぶ大きな目的の一つです。

 こうしたテーマは一般教養としても面白いのですが、ビジネスにも役立ちます。とりわけ「経済思想」「心理学」「宗教」の3つは、ビジネスパーソンにとって必須の知識といえます。