書家・紫舟さんがコロナ禍の今、10年ぶりの巡回展を始めたワケ書家・アーティストの紫舟さん Photo by Nobushiro Masaki

書家でアーティストの紫舟(ししゅう)さん。NHK大河ドラマ「龍馬伝」の題字で筆を執った人として知られている。フランス国民美術協会展で、横山大観以来となる主賓招待アーティストに選出され、2017年には天皇、皇后(現・上皇、上皇后)両陛下が彼女の作品展をご鑑賞された。現在、新たな「紫舟展」が、全国の高島屋を巡回中だ。実は、彼女がこのような巡回展を日本で行うのは10年ぶりだという。なぜ、いま展示会を始めたのか、話を聞いた。(聞き手/ライター 正木伸城)

展示会「祈り」に込めた思い

――今回の展示会の題は「祈り」。どのような思いで始められたのでしょうか。

 日本では古くから、疫病が蔓延(まんえん)したときに、安らかな世を願い、「遷都」や「大仏建立」などを行いました。天平時代に、聖武天皇や僧侶たちが大仏を建立した行動は、「祈り」の形でした。死への恐怖は不安をあおります。あおられた人々はしばしば暴動を起こし、外見上の違いなどから差別が激化することは、歴史上何度も繰り返されてきました。

 祈りは、そのような行動に人を導くのではなく、人々の恐怖を和らげ、心や行動に平安を与えてくれると先達は教えてくれています。私は、その「祈り」が、いまのアートにもあり、またそうやって生まれた文化は「人の心に作用する」と信じています。