子ども庁構想に欠かせない、保育の「福祉からサービス」への転換Photo:PIXTA

菅内閣は少子化対策の切り札として「子ども庁」構想を打ち出した。そこで重要なのは保育の福祉からサービスへの転換である。一足先にその転換を果たした介護同様に、家庭の置かれている状況に関係なく利用でき、低所得者を除き適正な水準まで利用料金を引き上げ、保育士の待遇改善をすべきだ。加えて企業の参入促進も不可欠である。(昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

所得水準や就労に関係なく
利用できる保育に

 コロナ対策だけで評価されがちな菅義偉内閣だが、デジタル庁に次ぐ「子ども庁」構想は、少子化対策の切り札として大きな意味を持っている。

 もっとも新しい行政組織を立ち上げても、そこでどのような政策を行うかという基本方針が明確にならなければ、単に関係各省からの寄り合い組織を増やすだけになってしまう。それでは「幼保一元化」の失敗を繰り返すことになろう。

 少子化対策は、安倍政権で中途半端に終わった働き方改革とも密接に関わっているが、保育行政だけに限っても改善の余地は大きい。それは保育の「福祉からサービス」への転換である。

 現行の認可保育所は、子育ては家族の責任という大前提の下で、両親が共に働かざるを得ない一部の家族の「保育を必要とする子」を市町村が認定し、認可保育所を割当てるという福祉行政の仕組みに基づいている。

 これは、いわば所得水準の低さや扶養家族がいないことの認定を受けなければならない、生活保護受給希望者と同じ扱いである。

 こうした家族に依存した旧来の制度を固守したままで、女性が働くことが当たり前の社会に対応しようとしていることの結果が、いつまでも解消しない「待機児童」問題である。

 最近、待機児童数は減少傾向にあり、一部の都市では定員割れの保育所も出始めている。しかし、これは利用者にとって望ましい保育所の空きを待っている場合には待機児童とは認めないという、福祉の論理に基づいた定義である。この潜在的な待機児童は、保育無償化政策の影響もあり、今後とも顕在化する可能性が大きい。

 それだけでなく、少子化社会における本来の保育所の役割においては、児童福祉から、子育てと就労の両立を図る家族を支援する「保育サービス」へというパラダイム転換が大きなカギとなる。

 保育の世界では、しばしば「子どもの利益」と「親の利益」とを対比させ、「親にとって便利過ぎる保育所は良くない」という表現が見られる。しかし、働く親に余裕がなければ、家庭で子どもに笑顔も見せられない。

 子どもの児童虐待防止のためにも、組織の一元化だけでなく、親の就労に関わらない一時保育等も含むように、認可保育所の役割を拡大させることが有効である。

 過去の幼保一元化の失敗も、幼児教育か保育かという違いよりも、利用者に選択されるサービスとしての幼稚園と、行政が措置する福祉としての保育所という制度の違いが大きかった。幼稚園と保育所を同じ場所に作る認定子ども園においても、制度間の格差は是正されないままとなっている。