世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
著者は「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し(6月30日刊行)、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。

日本の「若者ニート率」は世界で2番目に低い! 労働市場を数字でつかむ!Photo: Adobe Stock

若者の失業率、ニート率を数字でつかむ!

 本日は、若者の失業率とニート率を見ていきます。まずは失業率からです。

 ILO(国際労働機関)は2020年1月に「米中貿易摩擦による世界経済の減速を背景に、2020年の世界全体の失業率は5.4%になる」という予想を発表しました。

 ILOの指摘で興味深いのは、「技術革新によって作業の自動化などが進行すると、職を失う危険性は年長者よりも若年層のほうが高い」というものです。職業訓練の多くが汎用性に乏しいこと、また資格に見合った職業が不足していることなどから、若年層の未来は不確実といえます。

 先の指摘は「職業訓練によって学ぶことができる各職業固有の技能は、一般教育によって得られる技能よりも早く陳腐化する傾向がある」という事実を反映したものでした。

 さて、若年労働者とは15歳から24歳までの労働力人口を指します。ILOによれば、2019年、世界の若年労働者の失業率は13.6%(日本は3.7%。世界で17番目に低い割合)。2000年の12.5%から1%も上昇しています。さらに地域ごとのばらつきが大きくなっており、国ごとの政策などが大きく反映されます。新型コロナウイルスの影響によって、こうした数値はさらに大きく変動することが予想されます。

ヨーロッパは「若者」に厳しい。なぜか?

 ヨーロッパの若年労働者の失業率は比較的高い傾向があります。この背景を考えていきましょう。

 日本の雇用は、若いときに多種多様な経験を積ませて育てますので、どうしても、いわゆる「長い下積み期間」が生じてしまいます。そのため、大学時代に修めた学問と親和性の低い仕事に就いている人が少なくありません。

 しかしヨーロッパでは、ポストありきで採用するジョブ型雇用が多いのです。高い専門性を身につけた人は実力が認められれば若くして昇進していき、大金を手にすることもあるでしょう。しかし、それは一部のエリートだけの話であって、それ以外は年齢を重ねても同じ仕事を同じ年収で続ける人たちが多いのです。

 こうした背景から、ヨーロッパは「若年層に厳しく、中年層以上には優しい社会」といえるでしょう。中年層以上のノンエリートにはそれほど高い給与を支払う必要がなく、教育研修などのコストもかかりません。むしろ熟練労働者として年々実力を高めています。

 しかし、若年層は中年層と大して給与は変わらないにもかかわらず、技術的な熟練度は低い。これが若年層の雇用をためらう背景となっています。中年層の「働き方」に目を向けてみましょう。