「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。

石油がとれる地域の意外すぎる共通点とは?

世界は「資源」で動いている

 人間の行動は、土地と資源の奪い合いで示されます。これは土地と資源には限りがあるからであり、有限だから価値が決まるためです。

 例えば水資源の場合、包蔵(ほうぞう)水力を考える必要があります。包蔵水力とは、国内に存在する水資源のうち、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギーの量のことです。

 砂漠が広がるような西アジアや北アフリカ諸国といった降水量の少ない国、そして国土面積が小さい国では包蔵水力は小さくなります。

 逆に、モンスーンの影響により降水量が多くなるベトナム、タイ、インドネシア、インドといった東南アジア・南アジア諸国、そして国土面積が大きい国では包蔵水力は大きくなります。

 世界の包蔵水力を見ると、ブラジル、ロシア、カナダ、アメリカ、中国の上位5ヵ国だけで世界の約半分を占めます。さらに、上位10ヵ国まで加えると世界のおよそ3分の2を占めます。水資源もまた、世界中で一様に手に入るわけではないのです。

 石油も埋蔵に偏在性が大きい資源です。石油は、褶曲(しゅうきょく)構造を持つ地層に埋蔵が多い資源です。次の図を見てください。

石油がとれる地域の意外すぎる共通点とは?

 地層は地殻変動によって左右、もしくは一方から圧力が加えられ、圧縮されて波状に曲がることがあります。これを褶曲作用といいます。褶曲構造を持つ地域は世界中で見られるわけではなく、新期造山帯(環太平洋造山帯とアルプス=ヒマラヤ造山帯)に多いとされています。

 次の図を見ても、新期造山帯下に油田が多いことがわかりますね。

石油がとれる地域の意外すぎる共通点とは?

 20世紀は「石油の世紀」と呼ばれました。自動車や飛行機の利用が拡大し、そのエネルギー源としての需要が高まると、石油が多く眠るペルシア湾周辺の支配を巡って、多くの国が主導権争いをするようになります。地域の政治情勢が資源価格に影響を与えるようになりました。このことから石油は地政的リスクが大きい資源と考えられています。

 世界中で資源が採掘できるわけではありません。だからこそ資源を輸出することで外貨を稼ぐ国があれば、それらを原材料として輸入し、工業製品に加工して輸出する国が存在するのです。世界市場へ向けて、各国が最も得意な分野で外貨を獲得しているのです。

(本原稿は、宮路秀作著『経済は地理から学べ!』を抜粋、再構成したものです)