リモートワークでマネジメントの難易度は上がりました。「見えないメンバー」の行動を細かく管理したり、コントロールすることができないからです。大事なのは、「自走」できるメンバーを育て、彼らが全力で走れるようにサポートすること。そもそも、管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

なぜ、管理職が「頑張らない」ほうが、チームは「成果」を上げるのか?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

すでに「新しい競争」が始まっている

 いま、「課長」を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。

 その原因は言うまでもなく、コロナ禍によって、リモートワーク(テレワーク)が普及したことにあります。

 近年、ネット環境の整備が進むとともに、Web会議アプリをはじめとするオンライン・サービスが充実してきていたため、リモートワークはすでに実現可能になっていたところに、コロナ禍が発生。これが「職場に集まって働く」という強固な慣習を打ち破り、ホワイトカラーの職場を中心に、なかば強制的にリモートワークが一般化していったわけです。

 もちろん、これが一過性で終わる会社もあります。

 実際、緊急事態宣言下ではリモートワークを導入したけれども、宣言が解除されたら元に戻す会社も数多く存在します。しかし、社会全体の趨勢としては、コロナ禍が収束したとしても、リモートワークが定着していくことはほぼ間違いないと言えるでしょう。

 なぜなら、リモートワークを体験したことによって、そのメリットを実感したビジネスパーソンが激増したからです。

 例えば、パーソル総合研究所が実施したアンケートによると、「新型コロナウイルスの流行が収束した後もテレワークを続けたい」と答えた人の割合は78.6%、実に約8割に達しています(「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査 第4回」パーソル総合研究所)。

 これは、当然の反応でしょう。

 リモートワークであれば、通勤のストレスも軽減できますし、自分のペースでリラックスして働くこともできます。あるいは、家事、育児、介護との両立もしやすくなるでしょう。多くの人々が、これらのメリットを手放そうとしないのは当然のことではないでしょうか。

 会社にとってもメリットがあります。

 例えば、オフィスが点在している会社の場合、かつては会議を開催するために「移動時間」と「移動経費」(場合によっては宿泊費も)をかける必要がありましたが、リモートワークであればオンラインにつなぐだけでOK。コミュニケーション・コストを大幅に削減することができるわけです。

 あるいは、リモートワークを本格的に導入した会社のなかには、社員全員が同時に出社する必要がなくなったため、オフィス面積の削減に踏み切ることで、固定費を大幅に削減した会社もあると聞きます。つまり、リモートワークの導入に成功した会社は、ライバル会社に対して競争優位に立つことになるとも言えるわけです。

 こうしたことを考え合わせると、コロナ後もリモートワークは一定程度、定着していくと見ておくべきでしょう。

 おそらく、多くの会社において、オフィスに出勤するリアルワークとリモートワークを組み合わせながら、「最適なワークスタイル」を模索していくことになると思います。そして、いちはやく「最適なワークスタイル」を確立した会社が優位に立ち、それに失敗した会社は苦境に立たされるようになるでしょう。いわば、新しい「競争」がすでに始まったとも言えるのです。

なぜ、管理職が「頑張らない」ほうが、チームは「成果」を上げるのか?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。