最近の労働環境は「ハラスメントブーム」状態。課長にとって、おそらく過去最大レベルに労働法の知識が求められる時代が訪れています。新刊『課長は労働法をこう使え!』の中から、事例とともに実践的な「法律の使い方」をお伝えする連載第6弾。

「神」のようなオーナー社長に
対抗する術はあるのか?

 オーナー社長が一代で築き上げた会社は、当然ながらオーナーの意向が強く働きます。会社のヒト、モノ、カネについて、オーナーが「自分自身の所有物」と考えているケースが多いからです。

 あるオーナー社長は、昇進・昇格・配置転換など、すべてを思いどおりに決めていました。突然、「○○課長は、来週から名古屋支社に行ってほしい」、「営業の○○課長は明日から私の運転手になってほしい」などと言い出します。あるときは、キャバクラで気に入った女性をいきなり役員にして周囲を驚かせました。

 別の、学習塾を経営する会社の話です。

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大手予備校の管理部門にいたオーナー社長の息子が専務として入社しました。
社長は「専務を私の後釜にしたい」と考えています。
しかし、部課長たちはまだ20代で世間知らずの専務を認めていません。
あるとき、専務は自分の悪口を言われているという噂を聞きました。
指導課長と経理課長が「使えないバカ息子」と話していたというのです。
「俺の悪口を言うとはけしからん」、「明日から来なくていい」
そう言って、2人の課長を即刻解雇しました。
当然、裁判所は解雇無効と判断し、
会社はやむなく解決金を支払って和解しました。
それでも、社長の代替わりは既定路線です。
社長は息子に経営権を譲ることを決めています。
そして課長2人は、割り切って別の会社へ転職したのです。

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 こうした会社ではオーナー社長は「神」にも近い存在だったりします。

 あるオーナー社長に対して、私が「就業規則を見せてください」と聞いたところ、「そんなものはありませんよ。私自身が就業規則なんですから」と言われたことがありました。就業規則がないことも問題ですが、仮にあったとしても「自分がルールブック」という意識が根付いている以上、実態はあまり変わりがないかもしれません。

 そういう会社の場合、課長がオーナー発の労働問題に巻き込まれやすくなります。たとえば、強硬な退職勧奨を受ける、賃金をカットされる、不当な配置換えをされるなどです。 

 このような場合に肝に銘じておくべきは、正当性と待遇の両方が得られる可能性は低く、むしろトレードオフの関係にあるケースが多いということです。
労働基準監督署に訴えたり、会社相手に訴訟を起こして自分の正当性を主張することはできます。

 しかし、正当性が認められることと、その後も同じ会社で仕事を続けられることとは別問題です。「ルールブック」に逆らったのですから、社内での冷遇は覚悟しなくてはなりません。

オーナーと一戦交え、自分の正当性を主張するなら、会社に残るという考えは捨てたほうが良いでしょう。経営者への一歩を踏み出したとも言える課長というポジションを考えれば、多少の不当な扱いは我慢し、オーナーの意向に逆らわずに生きていくという選択肢もあります。うまくいけばさらに昇進する可能性もあります。