一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。昨年秋の刊行以降、世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに1万件以上のレビューが集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となる。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。

知っておくと得する「845億ドル」を稼ぐ方法Photo: Adobe Stock

バフェットの資産の95%以上は、60代半ば以降に増えたもの

 かの投資家、ウォーレン・バフェットが莫大な資産を築けたのは、単に彼が優れた投資家であったからではなく、“子どもの頃から優れた投資家であったから”である。

 本書の執筆時点で、バフェットの純資産は845億ドル。だが、そのうち842億ドルは、バフェットが50歳の誕生日を迎えた後に増えたものであり、さらにそのうち815億ドルは、社会保障の受給資格を得た60代半ば以降に増えたものだ。

 バフェットは類いまれな投資家である。しかし、その成功のすべてを「投資の才覚があったから」という一言で片づけてしまうと、重要なポイントを見逃してしまう。

 バフェットの成功を読み解く真の鍵は、彼が4分の3世紀にわたって類いまれな投資家であり続けたことにあるのだ。もしバフェットが30代で投資を始め、60代で止めていたら、その名が世界に知れ渡ることはなかっただろう。

もしバフェットが30歳から投資を始めていたら……

 ここで、ちょっとした計算をしてみよう。

 バフェットが本格的な投資を始めたのは10歳のときだ。30歳の時点では、純資産はすでに100万ドル(現在の930万ドルに相当)に達していた。

 もし、バフェットが人並みの人生を歩んでいて、たとえば10代や20代は見聞を広めるために世界を放浪し、30歳の時点で純資産2万5000ドルから投資を開始したとする。

 そして現在の彼と同じように驚異的な年間収益率(年間22%)で投資を開始し、60歳で引退して、後はゴルフを楽しんだり孫と遊んだりする日々を過ごしているとしよう。

 その場合、バフェットの現在の純資産はいくらになるのだろうか?

 845億ドルではない。1190万ドルである。現在より99.9%も少ない純資産しか持っていないことになる。

投資における最大の成功要因は「時間」

 つまり、ウォーレン・バフェットの経済的成功の秘密は、若い頃に経済的基盤を築き、それを高齢になっても維持し続けたことにある。バフェットの投資の技術は優れている。だが、成功の最大の要因は“時間”だった。これが複利の力だ。

(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)

モーガン・ハウセル

ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。