一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。昨年秋の刊行以降、世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上のレビューが集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が、12月8日に発売となる。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
目的のない貯金ほど、幸福度を高める
住宅や車の頭金、あるいは老後のためにお金を貯める人がいる。もちろん、それは素晴らしいことだ。しかし、特定の目的がなくても貯金はすべきだ。貯金自体が目的であってもいい。むしろ、そうすべきだ。誰もが、そうすべきなのだ。
特定の目的のためにだけ貯蓄するのは、すべてが予測可能な世界では意味があるかもしれない。しかし、私たちの世界はそうではない。人生では、最悪のタイミングで予期せぬ出来事が起こり得る。貯蓄は、そのリスクに対する備えなのだ。
誰でも、お金で得られるモノは知っている。だが目に見えないリターンの価値は理解しにくく、その存在に気づきにくい。お金がもたらす無形の恩恵は、私たちがふだん貯蓄の目的にしている有形のモノよりもはるかに価値があり、幸福度を高めてくれるものなのに。
何に使うかわからない貯金こそ、人生には必要
目的のない貯金をすれば、選択肢と柔軟性が手に入る。貯金があれば、待つべきときはじっと待てる。チャンスがきたら飛びつくこともできる。考える時間もつくれる。自分の意思で人生を軌道修正できるようになる。
私たちは少額の貯金をするたびに、誰かに所有されていた未来を少しずつ奪い返しているのだ。
銀行口座に預けているお金は、転職や早期退職など、選択肢というリターンを与えてくれる。このリターンは、計り知れないほど大きなものだ。測定できないので、私たちはその価値を見落としがちになる。
金利が0%の銀行預金だとしても、給料は安くてもやりがいのある仕事に就けたり、蓄えのない人は手が出せない投資のチャンスを待ったりする柔軟性をもたらしてくれる。貯蓄には、実はとてつもなく大きなリターンがあるのである。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。