IT・戦略会計・人材育成分野のコンサルタントとしてビジネスの第一線で活躍してきた著者の小池康仁氏は、41歳で阿闍梨(あじゃり、密教で修業した僧侶)への道に入り、現在は経営者・経営アドバイザリーとしても活動しながら、自身の体験をもとにした帝王学と陰陽五行論を全国で説いて回っています。
本書『「自分」の生き方――運命を変える東洋哲理2500年の教え』は、師と若きビジネスパーソンの会話形式というユニークな構成を取りながら、古来より口伝されてきた陰陽五行論の神髄を平易に伝えてくれます。
同書の抜粋構成による好評連載第5回では、「陰陽五行」における自分自身の人生の帝王となるという事について紹介します。

「帝王」とは気配り・心配りする存在である

「帝王」とは気配り・心配りする存在である

 帝王と聞くと、何だか恐ろしいイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。ふんぞりかえって偉そうに振る舞い、多くの人を支配する人物である、と。

 しかし、陰陽五行論では「真の帝王は他者へ気配り・心配りする存在」と定義しています。帝王は誰よりも他者に対して慈愛を携えて配慮していく存在であり、だからこそ他者が慕ってついてきてくれるのです。だからこそ、この社会で生きていくために人と人のかかわりの中でとても大切な振る舞いとなります。

 五徳本能の一つ「仁徳」は、常に目の前の方のことを考え、寄り添い、慈愛でもって接することを表しています。その結果、より一層の引力本能が稼働し、影響力を放つことができ、さらに魅力ある人となっていく。そうした循環をつくることこそが、帝王学の教えの神髄でもあり、目指すところなのです。

 帝王とは、必ずしも大きな組織のリーダーという意味ではありません。どんな人であれ一人ひとりが自分自身の人生の帝王となることで、その人の人生とその人の周りにいる人の人生を豊かにすることができるのです。

青年:この話からすると、私は帝王には程遠いですね。じつは3年前、会社を辞め、故郷に帰って無事に会社を立ち上げることができたまではよかったのですが、秘書を兼ねた経理担当者が次々と辞めていくのです。今の人で3人目でして、なぜ辞めてしまうのか、理由がわからずにいます。

康仁:経営者にとって非常に頭を悩ませる問題ですね。その原因に何か心当たりはありますか?

青年:忙しく飛び回っていたので、あまりコミュニケーションを取れていなかったのは事実です。いざ話すとなると、自分の言いたいことだけを一方的に伝え、「これを頼んだ!」とか、「これを直しておいてくれ!」と、つい命令口調になってしまうのです。

康仁:なるほど。あなたは今、社員を雇う社長という立場にいらっしゃる。仕事上の立場の差はあっても、人としては対等であり、まずはその方の尊厳を慈しむことが大切です。上司部下の関係性だと、なかなかすぐには本音を話してくれることは少ないかもしれませんが、何を感じているかを聴くのです。

青年:難しいですが、やってみます。

康仁:ところで、あなたは「孟母三遷」の教えをお聴きになられたことはありますか?
 孟母、すなわち孟子のお母様は孟子を育てるに際し、最適な環境を整えるために三度の転居を繰り返したという故事です。子供にとって最適な環境を整えることがとても重要であるということを意味しています。

青年:なるほど、しっかりと部下の宿命を見て、その宿命に即した環境を用意してあげるとよいということですね。