2009年12月23日早朝、中国・北京のイトーヨーカ堂アジア村店の正面玄関には、零下の凍えるような寒さのなか長蛇の列ができていた。客の目当てはトマトや白菜などの野菜が数量限定の特価で提供される早朝特売セール。午前9時の開店とともに地下の食品売り場には客がどっと押し寄せ、ワゴンに山と積まれた500g3.38元(約45円)の特価がついたトマトは、用意した500㎏がわずか数分で売り切れとなった。

 一見大盛況の年末商戦だが、麦倉弘・イトーヨーカ堂常務執行役員中国総代表の表情は冴えない。「12月だというのに販売が上向かない。クリスマスケーキの予約販売は去年の半分。消費者が価格に敏感になっている」。前述の早朝セールなどの販促で売り場の活性化に取り組んでいるものの、北京に9店舗あるイトーヨーカ堂全店の売上高は2009年度の累計では数%の前年割れとなる見込みだ。

 ところ変わって上海の目抜き通り、南京路にある高級百貨店、上海梅龍鎮伊勢丹。クリスマスを間近に控えた休日の化粧品売り場は若い女性客で賑わっていた。なかでも人気を集めているのが、資生堂や仏ロレアルなどの輸入高級ブランドだ。

 2009年8月に設置された最新型の高級感あふれる資生堂のカウンターでは、300元(約4000円)~3000元(約4万円)もする商品が飛ぶように売れている。1カ月の売り上げは1000万円を軽く超える。

 2009年第3四半期の中国の経済成長率は8.9%となり、通年の政府目標である8%の達成はほぼ確実となった。消費総額も対前年比でプラス15%前後の水準を維持しているが、先述したように地域や商品によって消費はまだら模様となっている。

 背景には消費の二極化の進展がある。イトーヨーカ堂の顧客調査によると、「安い物を増やしてほしい」という声とともに「ブランド品をもっと増やしてほしい」という声が多くなっているという。食料品や日用品は品質が良くて安い物を求める一方、嗜好品は高くてもいいものがほしい、と考える消費者が増えているのだ。

 イトーヨーカ堂では、こうした消費動向の変化に対処すべく、1998年に出店した北京第1号店の大改装に着手している。売り場を現状の倍以上の3万2400平方メートルに増床し、専門店を入れてショッピングモールのような業態にする計画だ。

 世界最大の消費市場として脚光を浴びている中国だが、13億人の市場は決して均一ではない。消費性向も刻々と変化している。この多様性と変化のスピードに適応できなければ、いかに市場が巨大であっても、パイにありつくことはできないだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田剛)

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