人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
動物も植物も「栄養」に変える
あなたは、自宅で定期的に充電を要するデバイスを、どのくらい持っているだろうか。例えば、スマートフォンやノートパソコン、タブレットは多くの人が毎日充電するであろうし、中にはスマートウォッチやワイヤレスイヤホン、電動自転車、掃除機などを日々充電している人もいるだろう。
当然、充電によって絶えずエネルギーを継ぎ足さなければ、これらの機器は動いてくれない。人体も同様である。電子機器よりはるかに高性能で、はるかに複雑な機能を持ち、そして莫大なエネルギーを絶えず必要とするのが私たちの体だ。当然のことながら、何らかのエネルギー源を継ぎ足さなければ機能しない。
自宅のコンセントに繋いだスマートフォンのように、寝ている間にエネルギーがチャージできれば便利だが、そういうわけには行かない。私たちに備わっているのは、「他の生物」を口から取り込み、それを燃料にエネルギーを生み出すシステムである。
自然界に存在する動物や植物は、とにかく多様である。これらを取り入れて消化し、栄養分を吸収するのは、容易なことではない。そのプロセスの中で重責を担うのは、数々の「消化液」である。私たちの体は、炭水化物、タンパク質、脂質のそれぞれを分子レベルに分解する、多彩な消化酵素を含む消化液をつくれるのだ。
私たちは食べるだけでいい
例えば、脂肪を分解するリパーゼや、炭水化物を分解するアミラーゼは膵液に含まれる消化酵素だ。膵液は膵臓でつくられ、膵管という管を通って十二指腸に分泌される。また、胃液にはペプシノゲンが含まれ、胃酸によってペプシンに変わってタンパク質を分解する。
胆汁に含まれる胆汁酸は肝臓でつくられ、胆管を通って十二指腸に分泌され、脂肪を分解するのに役立つ。本来、「水」と「油」は混ざらないため、他の栄養素のように水に溶かしてそのまま吸収することができない。ラーメンのスープの液面に、水に溶けずに浮かぶ脂肪滴を想像するとわかりやすい。
胆汁酸は、この脂肪を水に溶ける形に変化させる。この作用を「乳化」という。胆汁酸はコレステロールから生成され、それ自体も脂質の一種といえる。
まさに、石油からつくった洗剤で油汚れを落とすのと同じ理屈で、胆汁酸は脂質を吸収しやすくするのである。他にも数々の消化液が、さまざまな栄養素の吸収に役立っている。私たちは、ただ何も考えずに食べ物を口に放り込むだけでいい。
体は自動的に必要な栄養分を吸収し、老廃物を便や尿として排出してくれるからだ。恐るべき便利なシステムである。
(本原稿は、山本健人著『すばらしい医学』を抜粋、編集したものです)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に19万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。新刊『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)は3万8000部のベストセラーとなっている。
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