日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)
リアル空間とバーチャル空間で提供する顧客体験のデザイン
JVCケンウッド・デザインでは、グループのコア技術である映像・音響・無線をベースに、未来の五感体験を探るセンスウエア・プロトタイピングに取り組んでいる。後編では、そこで生まれた体験価値を事業価値につなげる自動車の車室内空間と、メタバース空間という二つの空間作りについて、同社の浦航介氏、豊口馨氏、守屋克浩氏に話を聞いた。

「情動」に注目し、未来の体験価値を形にする、センスウエア・プロトタイピング
顧客体験(CX)を重視した商品開発やサービス開発の動きが広がる中、JVCケンウッド・デザインでは、映像、音響、無線分野で培ってきたデザインのノウハウを生かし、「未来の体験」を生み出す取り組みを行っている。同社は、JVCケンウッドのデザインを一手に担っており、その役割は単に製品の外観を形作るだけでなく、ブランド全体のビジョンを体現するものとして重要な位置を占めている。今回、同社の取り組みを推進する柳沼広紀氏、山本俊輔氏、守屋克浩氏に、五感への刺激とインタラクションによって、価値ある体験を生み出す「センスウエア」と、新しい価値を探るプロトタイピングについて話を聞いた。

グリコがお菓子とともに創造してきた「体験」の力
モノからコトへの動きが始まるずっと以前から、製品そのものの力で顧客の記憶に残る体験価値(CX)を生み出してきたのが、2022年に創立100周年を迎えた菓子メーカーの江崎グリコだ。創業時から顧客起点を貫き、「食べる」という行為の周辺に広がる「遊ぶ」「つながる」「シェアする」といった体験を丸ごとデザインしてきた同社の製品作りを、同社デザイン部長の佐藤敏明氏がひも解いた。

2018年に経済産業省と特許庁が発表した「『デザイン経営』宣言」を契機に、デザインの力を経営に活用しようという機運が高まっている。とはいえ、技術力を強みにしてきた中小企業にとっては、デザインはあくまで見た目を整える「意匠」にすぎないという認識が根強く、経営戦略上の優先度は低いままだ。そんな企業に向けて、「エンジニアリングを突破口にしたデザイン経営」を提案するのが、技術系中小企業のデザイン経営導入に精力的に取り組むデザインエンジニアの登豊茂男氏だ。登氏が推進した経営変革の事例を通じて、デザイン経営の具体的なアプローチの方法を語る。

社内と社外、社会性と事業性、長期的なビジョンと短期的なビジネス課題……。新しい事業を創造しようとするとき、強いアイデンティティを構築するためには、異質なものを丁寧に繋ぎ合わせる作業が不可欠だ。ソニーグループでこの役割を担うのが、インハウスデザイン組織のクリエイティブセンターである。ソニーが挑戦した革新的なモビリティのプロジェクト「VISION-S」と、本田技研工業との提携において「デザイン」はどのように貢献したのか。初期段階から「Creative Hub」としてプロジェクトをけん引したクリエイティブセンター長の石井大輔氏が語る。

モノからサービスへ、リアルからデジタルへの大潮流がビジネスのあらゆる領域を覆う中、「デザイン」の役割が広がっている。特に、業界や業種を超えたつながりを駆使して多角的に事業を展開する大企業のブランド戦略に不可欠なのが「デザイン」の視点だ。ソニーグループの歴史あるデザイン組織「クリエイティブセンター」でも、近年とりわけ活性化しているのがブランディングデザインにまつわる活動だという。注目すべきは、一般的にはビジュアル要素が強いと考えられているデザインという枠組みの中で、「言葉」を意識的に使いこなしていることだ。同センター長、石井大輔氏が、現在に至るまでの経緯と取り組みの特色を語る。

地域の企業がデザインでブランド力を高める取り組みが活発だ。まちづくりや地域活性化の観点から、地方自治体がデザイナーとの協業を支援する例も少なくない。東大阪市のデザインプロジェクト「HIGASHIOSAKA FACTORies(東大阪ファクトリーズ)」もその一つ。特筆すべきは、モノの形を作る「狭義のデザイン」と、仕組みそのものを構築する「広義のデザイン」に並行して取り組み、プロジェクトを継続性のあるものにしている点だ。プロジェクトディレクターとして企画全体を統括するヒラカワデザインスタジオ代表の平川真紀氏が、取り組みの特色と手応えを語る。

大企業が大手広告代理店に依頼して、巨費を投じて行うイメージ戦略――。「企業ブランディング」を、そのように捉えている中小企業の経営者は少なくない。しかし、それは誤解だ。企業のブランドデザインを数多く手掛けてきたヒロタデザインスタジオ代表、廣田尚子氏は、中小企業こそ企業ブランディングに取り組むべきだと語る。その最適な方法について解説する。

2018年に経済産業省・特許庁が「『デザイン経営』宣言」を発表して以来、ビジネスにおけるデザインの役割が注目されている。これまで、日本の行政においてデザインは、「色や形(造形)」によって製品に特徴を与えることとして認識されていた。これは、大多数の企業経営者や一般社会の認識にも符合する。しかし、「『デザイン経営』宣言」では、企画構想からエンジニアリングまでを含む幅広いデザインを対象としている。その結果、デザインに対する注目度が高まる半面、従来の「狭義のデザイン」と、今日的な「広義のデザイン」に対する認識が混在し、「分かりにくい」状況が生まれている。本稿では、そうした混乱を読み解きつつ、経営にデザインをどのように活用していくのかを考えたい。
