米マウント・ホリヨーク大学(マサチューセッツ州)のダービー・ダイアー教授は、同氏の研究対象のある物質を保護する政府の取り決めに従い、高度なセキュリティー環境の下で働いている。「保管庫がどこかは教えられない」。ダイアー教授はこう言った。「もしあなたがカギを差し込むと、警報が突然鳴り出し、ビルから全員退避しなくてはならない」厳重に保管されているのは月の石だ。1960年代~70年代のアポロ計画の一環で宇宙飛行士が採集した月の石と土壌のサンプルだ。月から持ち帰った標本の所有権は米政府にある。これらは地球と月、宇宙の起源をめぐる疑問を解き明かすために科学者が入手できる最も貴重な標本の一部となっている。標本を守るため、米航空宇宙局(NASA)は犯罪映画に出てきそうな厳しいセキュリティー態勢を敷いている。それは単なる妄想ではない。ここ何年かの間に月の標本がいくつかNASAの引力が届かない所に逃れたのだ。2002年のある夜、3人のインターンがアポロ宇宙船の持ち帰った月の石を詰め込んだ重さ600ポンド(約272キロ)の金庫とともに姿をくらました。結局、石は取り戻したが、研究目的では使い物にならなかった。インターンは罪を認め、首謀者は8年余りの禁錮刑を言い渡された。