日産自動車の最高財務責任者(CFO)の退任観測が浮上している。仮にも、現役のCFOが経営再建の道半ばで要職から離脱することがあるとするならば一大事だ。特集『日産 消滅危機』の#5では、退任観測が広がった裏事情を解き明かす。それでも、日産の迷走は、経営幹部を一人更迭したくらいで止められるものではなく、最高幹部が総退陣するシナリオも濃厚だ。社内幹部で唯一「内田社長の後継候補」と目されているのは誰なのか。大胆に予想した。(ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)
人事を巡る内紛が勃発
CFO退任観測が浮上した裏事情
もはや、日産自動車にとって「人事抗争」はお家芸と言っていい。これまでも、経営者が交代したり業績が不振に陥ったりした時に、人事を巡る内紛が頻発してきた。
2018年の元会長のカルロス・ゴーン氏と元社長の西川廣人氏が対峙したゴーン解任劇、ナンバー3(執行役副最高執行責任者)だった関潤氏など日産主流派を排除したルノー会長のジャン=ドミニク・スナール氏の権力拡大――。最近では、2023年6月、内田誠社長がナンバー2(最高執行責任者)のアシュワニ・グプタ氏を辞任に追い込んだ事例が記憶に新しい。
そんな日産で、新たに「人事のゴタゴタ」の火種が燻っている。発端は、Bloombergが「日産の最高財務責任者(CFO)を務めるスティーブン・マー氏が近く退任する見通し」と報じたことにある。
マー氏は日産の最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミッティ(EC)の中核メンバーだ。仮にも、現役のCFOが経営再建の道半ばで要職から離脱することがあるならば一大事だ。株式市場では、財務実態が危機的状況にあるとみなされかねない人事であり、株価の下落要因になりかねない。
日産関係者は「マー氏が降格する、あるいは退任するといった事実はない」と否定している。
次ページでは、マー氏の退任観測が日産社内で流れた理由と、実際に退任があり得る「裏事情」を解き明かす。
商品企画の遅れ、主力の米中市場のブレーキ、サプライヤー施策の不備、電動化・ソフトウエ化の開発遅れ、余剰生産能力の放置――。自動車メーカーにとって重要な機能軸がほぼワークしていないほどに経営が混乱している。
この有事に、CFOを一人更迭したくらいで経営危機を鎮静化できるものではない。実際には、ECメンバーが総退陣するくらいのショック療法が求められている。そんな中でも、唯一、日産社内で「内田社長の後継候補」と目されている幹部とは誰なのか。